夏の昼下がり、台所のすみで黒猫がじっと座っていました。
窓の外では蝉が鳴いていて、白いカーテンが風に少しだけ揺れています。
テーブルの上には、大きなスイカがひとつ置かれていました。
黒いしま模様の入った丸いスイカは、まるで小さな夏の星みたいに、そこだけ特別な存在感を放っていました。
黒猫は、スイカのまわりをゆっくり一周します。
くんくんと匂いをかいで、前足で少しだけ触れて、それから首をかしげました。
「これは食べものなのか、それとも丸い友だちなのか」
そんなことを考えているような顔でした。
やがてスイカは包丁で切られ、赤い中身が顔を出します。
みずみずしい赤色と、小さな黒い種。
その色を見た黒猫は、少しだけ目を大きくしました。
夏の光がスイカの表面に反射して、台所の中まで少し涼しくなったように見えます。
お皿にのせられたスイカのそばで、黒猫は静かに座りました。
食べるわけでもなく、ただそこにいます。
赤いスイカと黒猫。
その組み合わせは、絵本の一ページみたいにかわいくて、少し不思議でした。
冷たいスイカをひと口食べると、甘い水分が口の中に広がります。
暑かった部屋の空気も、少しだけやわらかくなった気がしました。
黒猫はスイカを見つめたあと、ゆっくりと床に寝そべります。
ひんやりした床が気持ちいいのか、しっぽを小さく動かしながら目を細めました。
夏は少し暑くて、少し退屈で、少しだけ特別です。
大きな出来事がなくても、冷えたスイカと黒猫がいるだけで、その日はちゃんと物語になります。
食べ終わったあとのお皿には、赤い果汁が少しだけ残っていました。
黒猫はそれを見て、また首をかしげます。
まるで、夏の秘密を見つけたような顔でした。
黒猫とスイカ。
それは、暑い日の中に置かれた、小さくて涼しい物語なのかもしれません。
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