夏の朝、黒猫はいつもより少し早く目を覚ました。
古い木の窓から、白くやわらかな光が差し込んでいた。
庭では、青いアサガオが一輪だけ咲いている。
昨日までは、まだ固く閉じたつぼみだった。
黒猫は窓辺へ飛び乗り、丸い目で花を見つめた。
朝の風が吹くたびに、薄い花びらが静かに揺れている。
「昨日はいなかったのに」
黒猫はそう思いながら、窓の隙間から庭へ出た。
冷たい土を踏み、小さな鉢の前まで歩いていく。
アサガオは空へ顔を向け、朝の光を受け止めていた。
黒猫が鼻先を近づけると、花びらに残っていた朝露が一粒だけ落ちた。
それは黒猫の前足に触れ、すぐに見えなくなった。
黒猫は驚いて前足を持ち上げたが、アサガオは何事もなかったように揺れている。
夏の日差しが強くなると、花は少しずつ元気を失っていった。
朝には大きく開いていた花びらが、昼を過ぎるころには静かに閉じ始めた。
黒猫は縁側の日陰から、その様子をじっと見ていた。
せっかく咲いたのに、もう終わってしまうのだろうか。
夕方、青い花は小さくしぼみ、朝の姿を思い出せないほど細くなっていた。
黒猫は少し寂しくなり、鉢のそばに座った。
けれど、細い緑のつるをよく見ると、その先には新しいつぼみがあった。
ひとつだけではない。
葉の陰にも、その奥にも、小さなつぼみが静かに並んでいた。
黒猫はしっぽを一度だけ揺らした。
今日の花は、もう戻らない。
それでも明日の朝には、別の花が咲くのかもしれない。
次の日、黒猫はまた早く目を覚ました。
窓の向こうには、昨日より少し淡い色をしたアサガオが咲いていた。
黒猫は急がずに窓辺へ座り、夏の朝にだけ現れる花を静かに眺めた。
毎日同じように見える朝にも、昨日とは違う何かが咲いている。
そのことを、黒猫はアサガオから教えてもらった。
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