山の奥、まだ朝の光がやわらかく差し込む時間。
静かな森の中で、一頭の母イノシシがゆっくりと歩き出した。
その後ろを、ちょこちょこと小さな足音がついてくる。
まだ体に縞模様が残る、ウリ坊たちだった。
「今日は少し遠くまで行くよ」
言葉はなくても、その背中がそう語っているようだった。
この山は、ずっと住んできた場所。
木の匂いも、土のやわらかさも、全部知っている。
でも、少しずつ変わってきていた。
人の気配が増え、静けさが減り、安心して眠れる場所が少なくなっていた。
だから母イノシシは決めた。
もっと静かで、安心できる山へ行こうと。
ウリ坊たちは、まだその理由をよくわかっていない。
けれど、母の後ろを歩いていれば大丈夫だと、どこかで知っている。
落ち葉を踏む音。
遠くで鳴く鳥の声。
ときどき立ち止まって、母は周りを見渡す。
危険がないか、ちゃんと道が続いているか。
その間、ウリ坊たちは寄り添うように集まる。
まるで小さなひとつのかたまりのように。
やがて森の景色が少しずつ変わり始める。
見たことのない木々、少し違う風の匂い。
「ここだね」
そんな気配とともに、母はゆっくりと歩みを止めた。
そこは、静かで、やわらかな土に包まれた場所だった。 光もやさしく、風も穏やかに流れている。
ウリ坊たちは、すぐにその場所を気に入ったようだった。 小さな体で駆け回り、落ち葉に顔をうずめる。
母イノシシは、その様子を静かに見守る。
大きな声も、特別な出来事もない。
ただ、安心して過ごせる場所があるだけ。
それだけで、十分だった。
新しい山での暮らしが、ゆっくりと始まる。
そしてきっと、ウリ坊たちはここで大きくなり、
いつかまた、自分たちの道を歩いていく。
その日が来るまでは——
この静かな森の中で、母の背中を追いながら。
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