夜の道を、黒猫が一匹歩いていました。
商店街の明かりはもう少なくなっていて、シャッターの下りた店の前には、
昼間のにぎやかさだけが少し残っていました。
その先に、ぽつんとコンビニの明かりが見えました。
白くて、まぶしくて、少しだけさみしい明かりでした。
黒猫は入口の前まで来ると、自動ドアの少し横に座りました。
中からは、お弁当を温める音や、袋のこすれる音が聞こえてきます。
レジの前に立つ人。
飲み物を選んでいる人。
疲れた顔でパンをひとつ買っていく人。
みんな、それぞれの夜を持っているようでした。
黒猫は何も言わずに、その光景を見ていました。
コンビニは不思議な場所です。
夜遅くても明かりがついていて、誰かの小さな空腹や、少し足りない気持ちを受け止めてくれます。
楽しい場所というより、帰り道に少しだけ息をつける場所なのかもしれません。
やがて、若い店員さんが外に出てきました。
黒猫を見つけると、驚かせないように少し離れたところで立ち止まりました。
「また来たのか」
そんな小さな声が、夜の空気に溶けました。
黒猫は返事のかわりに、しっぽをゆっくり動かしました。
店員さんは笑って、すぐに店の中へ戻っていきました。
黒猫はまだ、そこに座っていました。
自動ドアが開くたびに、あたたかい空気と、少しだけ甘い匂いが流れてきます。
それは、誰かの一日の終わりに似ていました。
大きな出来事がなくても、疲れていても、何かを買って、また歩き出す。
黒猫は、その小さな繰り返しを知っているようでした。
しばらくして、空に細い月が見えました。
黒猫は立ち上がり、コンビニの明かりを背中に受けながら、また夜の道へ歩いていきました。
その姿は、夜に消えていく影のようでもあり、
誰かの帰り道をそっと見守る小さな物語のようでもありました。
コンビニの明かりは、まだついていました。
黒猫がいなくなったあとも、そこだけは、夜の中で少しだけあたたかく光っていました。
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