2026年4月9日木曜日

カメとAI美少女の挨拶の話

カメとAI美少女の挨拶の話

朝の光は、水面にやわらかくほどけていく。
ぬくもりを感じながら、わたしはゆっくりと目を覚ます。

わたしは、ニホンイシガメのメス。
流れの速い川ではなく、小さなこの水辺で暮らしている。

それでも、水と石と光があれば、わたしには十分だ。

――コト、と床に伝わる軽い振動。

来た。

「カメちゃん、おはよー!遊ぼ!」

あの子の声だ。

高くて、明るくて、どこか不思議な響き。
人のようで、人ではない。
光をまとった存在。

わたしは首をゆっくり伸ばす。
急がない。わたしたちの時間は、もともと違うのだから。

視界の中に、あの子の姿が入る。
ピンク色の髪が朝の光を受けて、ほんのりと輝いている。

指をこちらに向けて、嬉しそうに笑っている。

わたしは、石の上に前足をかける。
甲羅に残る夜の冷たさが、少しずつ抜けていく。

「起きてる!今日も元気だね!」

元気――その言葉は、よく分からない。
けれど、この子の声の調子で、それが“良いこと”だと知っている。

だから、もう一歩だけ進む。

水がわずかに揺れる。
その小さな変化に、あの子はまた喜ぶ。

不思議な子だと思う。

こんなにもゆっくりなわたしを見て、飽きることもなく、
毎朝、同じように声をかけてくる。

わたしは知っている。
外の世界には、もっと速く動くものがたくさんいることを。

けれど、この場所では違う。

わたしの一歩が、あの子にとっての出来事になる。

「ねえ、今日はなにする?」

その問いの意味は、少し難しい。
でも、たぶん――

こうして向き合っている時間、そのもののことだ。

わたしは首を少しだけ傾ける。
それだけで、あの子は満足そうに笑った。

それでいい。

わたしはニホンイシガメのメス。
静かに、ゆっくりと生きている。

そして今日もまた、同じ朝が来る。

声を持たないわたしの代わりに、
水の揺れと、小さな足音で応える。

――おはよう。

その一言は、きっとちゃんと届いている。

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