2026年4月4日土曜日

ちびっこ龍が神社に来た話

ちびっこ龍が神社に来た

ある日のこと。
理由もきっかけもはっきりしないまま、
ちびっこ龍はふらりと神社に迷い込んでいた。

そこは、龍を祀っている神社だった。
鳥居をくぐった瞬間、どこか懐かしいような、
不思議な空気がちびっこ龍の体をすり抜ける。

境内には、たくさんの風鈴が吊るされていた。
軒先、木々の間、手水舎のそば。
あちこちに、静かに揺れる小さな音のかたまり。

風はほとんど吹いていなかった。
だから、風鈴たちも眠るように静かだった。

ちびっこ龍は、少し首をかしげる。

「……?」

そして、そっと前に進んだ。

その瞬間。

ふわり、と小さな風が生まれた。

ちびっこ龍の動きに合わせるように、やわらかな風が境内をすり抜けていく。

次の瞬間、ひとつ、またひとつと風鈴が鳴りはじめた。

ちりん。
ちりりん。

音は重なり、広がり、やがて境内いっぱいに響き渡る。

ちびっこ龍は目を丸くした。

「……!」

自分が歩くたびに、風が生まれる。
風が通るたびに、風鈴が鳴る。

それがわかると、ちびっこ龍はなんだか楽しくなってきた。

とことこ、と少し早く歩いてみる。
すると、風も少しだけ強くなる。

ちりん、ちりん、ちりりん。


音が増える。

くるり、と向きを変えてみる。
また風が流れる。

ちりりりん。

今度は小さく跳ねてみる。

ちりんっ。

まるで遊んでくれているみたいに、風鈴たちは素直に応えてくれる。

その様子を見ている人間は、誰もいない。
いや、正確には——見えていない。

参拝に来た人が首をかしげる。

「風、強くなった?」

けれど、そのすぐそばで、ちびっこ龍はくるくると動き回っている。

人には見えない、小さな存在。
けれど確かに、そこにいる。

ちびっこ龍はすっかり夢中になっていた。

境内を端から端まで走ってみる。
石段を登ってみる。
木の周りをぐるぐる回ってみる。

そのたびに風が生まれ、風鈴が鳴る。

ちりん、ちりん、ちりりん。

やがて、境内は音で満たされていく。

静かなはずの神社に、
見えない誰かの笑い声の代わりに、
澄んだ音だけが広がっていく。

しばらくして、ちびっこ龍は立ち止まった。

たくさん鳴った風鈴たちが、少しずつ静かになっていく。

余韻のように、最後のひとつが鳴る。

ちりん。

ちびっこ龍は、それをじっと見上げた。

なぜここに来たのかは、わからない。
でも、なんだか少しだけ満たされた気持ちになっていた。

また来てもいいかもしれない。

そんなことを思いながら、
ちびっこ龍はふわりと境内をあとにする。

その後ろで、
風もないのに、ひとつだけ風鈴が鳴った。

ちりん。

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