わたしは二ホンイシガメのメス。
今日も水槽の中、窓際で静かに日向ぼっこをしている。
ぬるくなった水と、やわらかい光。
この場所は、わたしのお気に入りだ。
甲羅に当たる太陽は、ゆっくりと体の奥までしみこんでくる。
動かなくても、ちゃんと生きていると感じられる時間。
そんな穏やかなひとときだった。
そのとき、ふと影が揺れた。
顔を少し上げてみると、窓の向こうに小さな気配。
スズメだった。
ちょん、と軽やかに窓の外に降り立って、こちらを見ている。
丸い体に、せわしない目。
わたしとはまるで違う、風みたいな存在。
スズメは首をかしげた。
まるで「なにしてるの?」と聞いているみたいに。
わたしは答えない。
ただ、じっと見つめ返すだけ。
だって、わたしは動かない生き物だから。
急ぐ理由も、飛び立つ理由もない。
しばらくのあいだ、
わたしたちはガラス越しに同じ時間を共有していた。
外の風を知っているスズメと、
この水と光の中で生きるわたし。
違う世界なのに、
なぜかその距離は遠くなかった。
やがてスズメは、何かに気づいたように羽を震わせて、
ひょい、と空へ帰っていった。
あとに残ったのは、また静かな日差し。
わたしはもう一度、目を細める。
甲羅に当たる光が、さっきより少しやさしく感じた。
あの小さな訪問者のぬくもりが、
まだどこかに残っている気がした。
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