2026年4月11日土曜日

カメとスズメの話

カメとスズメ

わたしは二ホンイシガメのメス。
今日も水槽の中、窓際で静かに日向ぼっこをしている。
ぬるくなった水と、やわらかい光。
この場所は、わたしのお気に入りだ。

甲羅に当たる太陽は、ゆっくりと体の奥までしみこんでくる。
動かなくても、ちゃんと生きていると感じられる時間。
そんな穏やかなひとときだった。

そのとき、ふと影が揺れた。
顔を少し上げてみると、窓の向こうに小さな気配。

スズメだった。

ちょん、と軽やかに窓の外に降り立って、こちらを見ている。
丸い体に、せわしない目。
わたしとはまるで違う、風みたいな存在。

スズメは首をかしげた。
まるで「なにしてるの?」と聞いているみたいに。

わたしは答えない。
ただ、じっと見つめ返すだけ。

だって、わたしは動かない生き物だから。
急ぐ理由も、飛び立つ理由もない。

しばらくのあいだ、
わたしたちはガラス越しに同じ時間を共有していた。

外の風を知っているスズメと、
この水と光の中で生きるわたし。

違う世界なのに、
なぜかその距離は遠くなかった。

やがてスズメは、何かに気づいたように羽を震わせて、
ひょい、と空へ帰っていった。

あとに残ったのは、また静かな日差し。

わたしはもう一度、目を細める。
甲羅に当たる光が、さっきより少しやさしく感じた。

あの小さな訪問者のぬくもりが、
まだどこかに残っている気がした。

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