2026年4月21日火曜日

鹿の親子の雨宿り

鹿の親子の雨宿り

山あいの小さな田舎道を歩いていると、
ときどき時間がゆっくり流れているように感じる場所があります。

古びたバス停も、そんな場所のひとつでした。

屋根のついた小さな待合所。

木のベンチは少し色あせていて、
時刻表の文字も雨風にさらされてうすくなっています。

人が来ることなんて、きっとそう多くはないのでしょう。

その日、空は朝からどんよりしていて、
しばらくすると細かな雨が静かに降り始めました。

強い雨ではなく、音もあまりしない、
しっとりと地面をぬらしていくような雨でした。

そんな雨の中、その小さなバス停に、鹿の親子がいました。

母鹿が先に屋根の下へ入り、そのあとを追うように、
まだ体の小さな子鹿がちょこんと隣に並びます。

まるで最初からそこが自分たちの場所だったみたいに、
ふたりは自然に雨宿りをしていました。

母鹿は外の様子を気にするように、ときどき静かに顔を上げます。
子鹿はそんな母鹿のそばにぴったり寄り添って、安心したようにじっとしていました。
雨のにおいと、濡れた土の空気と、遠くで聞こえる川の音。
その全部を、ふたりはただ静かに聞いているようでした。

人のために作られたはずのバス停なのに、
その日だけは鹿の親子のための小さな休憩所に見えました。

急がなくていいよ、と言ってくれているような、やさしい屋根。

雨がやむまで、ここで少し休んでいきなさいと、
田舎の風景そのものがふたりを包んでいるようでした。

子鹿はときどき雨の外を不思議そうに見つめます。

屋根の端からぽたぽた落ちるしずくを、
じっと目で追っている姿がなんとも愛らしくて、
見ているこちらまで気持ちがゆるんできます。

母鹿はそんな子どもの様子を知っているのか、
知らないのか、ただ静かに隣に立っていました。

その落ち着いた姿が、いかにも母親らしくて、
なんだか胸があたたかくなります。

雨の日は、少しさみしい気持ちになることがあります。

けれど、こんなふうに寄り添いながら雨をやりすごす姿を見ると、
雨の日も悪くないと思えてきます。

にぎやかではないけれど、たしかにそこにあるぬくもり。

静かな風景の中に、ちゃんと物語はあるのだなと思いました。

いつか本当に、田舎のどこかのバス停で、
こんな鹿の親子に出会えたらいいなと思います。

何も話さなくても、ただその場にいるだけで心がやわらかくなるような、
そんな時間です。

雨は少しずつ弱くなっていきます。
そしてまた、鹿の親子はゆっくり森のほうへ帰っていくのでしょう。

小さなバス停には、しずくの音だけが残って、
さっきまでそこにいたぬくもりの気配だけが、
静かに漂っているのです。



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ここまで読んでくれて、ありがとうございます。

気になるものがあれば、
そっとのぞいてみてください。

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