机の上に、古い財布が置いてありました。
茶色い革の財布で、ところどころに小さな傷があります。
新しいものではないけれど、手になじむような、少しだけ安心する財布でした。
その財布のそばに、黒猫がいました。
黒猫は、財布を見つめていました。
まるで、中に何が入っているのかを知っているような顔でした。
私は、少し笑ってしまいました。
「そこには、そんなに面白いものは入ってないよ」
そう言って財布を開けると、黒猫はゆっくり顔を近づけてきました。
中に入っていたのは、少しの小銭と、何枚かのカード。
それから、いつ入れたのか忘れていた小さなレシート。
黒猫は、それらをじっと見ていました。
人間にとって財布は、不思議なものかもしれません。
欲しいものを買うために持ち歩き、
足りるかどうかを気にして、
時には中身を見て、少しだけため息をつく。
黒猫には、そんなことは関係ありません。
財布が空に近くても、
今日はごちそうがなくても、
黒猫はいつも通り、窓辺で丸くなります。
必要なものは、あたたかい場所。
静かな部屋。
そして、安心して眠れる時間。
それだけで、黒猫は満足そうに目を細めます。
私は財布を閉じて、机の上に戻しました。
すると黒猫は、財布の横に前足をそっと置きました。
まるで、それを守ってくれているようでした。
お金を守っているのか。
それとも、財布に入っている生活の気配を守っているのか。
どちらでもいい気がしました。
黒猫は何も言いません。
ただ静かに、そこにいます。
その姿を見ていると、少しだけ思いました。
財布の中身ばかり気にしていると、
そばにある小さな安心を見落としてしまうのかもしれない。
古い財布。
静かな部屋。
隣にいる黒猫。
それだけで、今日という日は、思っていたより悪くないのかもしれません。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます
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