海の近くに、小さな港がありました。
朝になると、港にはいくつもの船が並びます。
白い船、青い船、少し古びた木の船。
その中の一そうに、黒猫がちょこんと座っていました。
黒猫は船の先に座り、遠くの海をじっと見ています。
波の音を聞いているのか、海の向こうに何かを探しているのか、誰にもわかりません。
船はゆっくりと揺れていました。
大きく揺れるわけではありません。
まるで眠っているように、静かに、静かに動いています。
黒猫のしっぽも、その揺れに合わせるように、少しだけ動きました。
港には、魚のにおいと潮のにおいが混ざっています。
遠くでは、カモメが鳴いていました。
古いロープがきしむ音も、どこか懐かしく聞こえます。
黒猫は船に乗って、どこかへ行きたいのでしょうか。
それとも、どこかへ行ってしまった誰かを待っているのでしょうか。
海を見ている黒猫の背中は、小さいのに、とても静かで、少しだけ大人びて見えました。
船はまだ出ません。
港に結ばれたまま、今日も波に揺れています。
けれど黒猫にとって、その船はただの船ではないのかもしれません。
遠い場所を思うための場所。
誰かを待つための場所。
そして、ひとりで静かに夢を見るための場所。
黒猫は目を細めました。
海の上には、朝の光がきらきらと広がっています。
どこまでも続く青い道のようでした。
船は動かなくても、心だけは少し遠くへ行ける。
黒猫はそんなことを知っているように、今日も静かに海を見つめていました。
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