夏の朝、台所のテーブルに大きなパイナップルが置かれていた。
青々とした葉を頭の上に広げ、黄色と緑色の模様が入った体で、ずっしりと立っている。
買い物から帰ってきた家の人が、あとで食べようと思って置いていったものだった。
そこへ、庭から戻ってきた黒猫が姿を見せた。
黒猫はテーブルの前で足を止めると、見慣れないものを不思議そうに見上げた。
丸いようで丸くない。
木の実のようで、どこか違う。
頭には硬そうな葉が何枚も伸びていて、猫のしっぽのように風で揺れることもない。
黒猫は椅子に飛び乗り、さらにテーブルの上へ移った。
そして、パイナップルのまわりをゆっくりと一周した。
右から眺め、左から眺め、少し離れた場所からもう一度眺める。
それでも、何者なのかは分からない。
黒猫は鼻先を近づけ、そっと匂いをかいだ。
まだ切られていないパイナップルからは、青い葉と南の国を思わせる、少し甘い香りがしていた。
黒猫は食べ物なのかもしれないと思ったのか、前足で軽く触れてみた。
けれど、パイナップルは思ったよりも硬く、びくともしなかった。
もう一度だけ触れてみる。
やはり動かない。
黒猫は少しだけ困ったような顔をして、その場に座り込んだ。
しばらくすると、家の人が台所へ戻ってきた。
包丁でパイナップルの葉と皮を切り落とすと、部屋の中に明るく甘い香りが広がった。
先ほどまで硬い置物のようだったものが、みずみずしい黄色い果物へ変わっていく。
黒猫は少し離れた場所から、その様子をじっと見つめていた。
小さく切られたパイナップルが白い皿に並べられると、夏の光を閉じ込めたようにきらきらと輝いた。
黒猫はまた鼻を近づけたものの、食べることはせず、窓辺へ歩いていった。
どうやら、黒猫の好みではなかったらしい。
けれど窓辺で横になったあとも、ときどき顔を上げて、黄色いパイナップルを眺めていた。
見慣れないものは、少し怖くて、少し気になる。
今日の黒猫にとってパイナップルは、夏の朝に突然現れた、不思議な訪問者だったのかもしれない。
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