夏の朝、黒猫は窓辺で目を覚ました。
開けた窓から入ってくる風には、草と土の匂いが混じっていた。
いつものように庭へ下りた黒猫は、細い道をゆっくり歩き始めた。
道の先には、緑の葉が一面に広がるスイカ畑があった。
大きな葉の下には、丸いスイカがいくつも隠れている。
黒猫は葉の間へ顔を入れ、ひとつずつ確かめるように歩いた。
まだ小さなスイカ。
縞模様がはっきりした大きなスイカ。
土の上で少し傾きながら、静かに夏の日を待っているスイカ。
黒猫には、その丸い実が畑の中で眠っているように見えた。
一番大きなスイカのそばに座ると、葉の陰は思っていたよりも涼しかった。
風が吹くたびに、広い葉が重なり合って揺れる。
遠くではセミが鳴き、青い空には白い雲がゆっくり流れていた。
黒猫は前足でスイカにそっと触れてみた。
表面はつるりとしていて、朝の光を少しだけ映している。
転がしてみようと力を入れたが、スイカはびくともしなかった。
黒猫は何事もなかったように前足を戻し、そのままスイカへ背中を預けた。
畑を吹き抜ける風は、家の窓辺で感じる風よりも広く、やさしかった。
やがて日差しが強くなると、畑の向こうから麦わら帽子をかぶったおばあさんが歩いてきた。
黒猫を見つけたおばあさんは、大きなスイカを軽くたたいた。
ぽん、ぽん、と低く澄んだ音がした。
「もう少しで食べごろだね」
黒猫はその言葉を聞きながら、丸いスイカを見つめた。
食べごろというものが、どんな姿をしているのかは分からない。
けれど、もう少し待つということなら分かった。
黒猫は立ち上がり、来た道をゆっくり戻っていった。
振り返ると、スイカ畑は夏の光の中で静かに揺れていた。
また明日も見に来よう。
あの大きなスイカが、今日より少しだけ夏に近づいているかもしれないから。
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