公園のすみっこに、古い木のベンチがありました。
そのベンチの下には、一匹の黒猫がよく座っていました。
黒猫は、いつも静かでした。
人が通っても、犬が吠えても、風で落ち葉が転がっても、少しだけ目を細めるだけでした。
まるで、世界の音をぜんぶ聞き終えてしまったような顔をしていました。
ある日の夕方、公園に白猫がやってきました。
白猫は、黒猫とは反対に、少し落ち着きがありませんでした。
ベンチの上にのぼったり、花壇のそばを歩いたり、落ち葉を前足でつついたりしていました。
黒猫は、その様子を黙って見ていました。
白猫は、ふと黒猫に気づくと、少しだけ首をかしげました。
そして、何も言わずに黒猫の近くへ来ました。
黒猫は逃げませんでした。
白猫も、それ以上近づきすぎませんでした。
二匹のあいだには、ほんの少しだけ距離がありました。
でも、その距離は冷たいものではありませんでした。
夕日が公園を薄い金色に染めていきます。
ブランコは誰も乗っていないのに、風で小さく揺れていました。
遠くの道路から、車の音がかすかに聞こえてきます。
黒猫はベンチの下で丸くなり、白猫はその隣に静かに座りました。
黒と白。
まったく違う色をした二匹なのに、夕暮れの中では不思議とよく似て見えました。
たぶん、同じ空を見ていたからかもしれません。
たぶん、同じ風を感じていたからかもしれません。
人は、違うものを見ると、すぐに比べてしまいます。
明るいとか、暗いとか。
強いとか、弱いとか。
正しいとか、間違っているとか。
でも、猫たちはそんなことを考えていないようでした。
黒猫は黒猫のまま。
白猫は白猫のまま。
ただ同じ場所にいて、同じ時間を過ごしていました。
しばらくすると、白猫が小さくあくびをしました。
黒猫はそれを見て、少しだけ目を閉じました。
まるで、「ここにいてもいいよ」と言っているようでした。
白猫は、黒猫の隣で丸くなりました。
二匹の影が、夕方の地面に長く伸びていきます。
その影は、黒でも白でもありませんでした。
ただ、静かに寄り添う二匹の形をしていました。
夜が近づくころ、公園の街灯がぽつりと灯りました。
黒猫と白猫は、まだそこにいました。
言葉はなくても、そばにいるだけで伝わるものがあります。
違っていても、一緒にいられることがあります。
むしろ違うからこそ、となりにいる姿がやさしく見えるのかもしれません。
黒猫と白猫。
その小さな二匹を見ていると、世界は少しだけ静かで、少しだけやさしい場所に思えました。
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