2026年7月28日火曜日

黒猫と食パン

黒猫と食パン

朝の光がまだ低い角度で差し込む時間、うちの黒猫は決まって台所の床にお座りをして、私が食パンを焼くのを眺めている。

理由はよくわからない。おやつをねだっているわけでもなさそうだ。パンそのものに興味があるのか、それともトースターが発するあの香ばしい匂いが単純に好きなのか。名前は「クロ」という、ひねりのない名前をつけているが、本人(本猫?)はいたって満足そうにしている。

黒猫と食パンというのは、考えてみると不思議な組み合わせだ。片や闇夜に溶け込むような漆黒の毛並み、片や真っ白でふわふわの断面。まるで白黒のコントラストを絵に描いたような二人(一人と一斤)が、毎朝同じキッチンで顔を合わせている。

トースターの「チン」という音が鳴ると、クロはピクリと耳を動かす。焼き上がった瞬間の、あのパンがふくらむような香り立つ空気を、彼はまるで儀式のように待っている。バターを塗る手元をじっと見つめ、私が一口かじると「ふん」とでも言いたげに視線を外し、また丸くなって寝てしまう。猫にとって、食パンは食べ物ではなく、朝という時間そのものの象徴なのかもしれない。

黒猫には昔から「幸運」や「魔女の使い」など、いろいろな言い伝えがついて回る。海外では幸運の象徴とされる地域もあれば、日本では縁起が悪いと言われた時代もあったらしい。けれど、実際に一緒に暮らしてみると、そんな伝説めいた話はどうでもよくなる。目の前にいるのはただ、パンの匂いが好きで、日向ぼっこが好きで、私が少しでも構ってくれるとゴロゴロ喉を鳴らす、一匹のかわいい生き物だ。

食パンもまた、シンプルだからこそ奥が深い。厚切りにしてトーストするもよし、サンドイッチにするもよし、耳を落として贅沢に食べるもよし。毎朝同じように見えて、実は日によって焼き加減やバターの量、添えるジャムの種類で表情を変える。黒猫の気まぐれな様子と、どこか似ている気がする。

そんなわけで、我が家の朝は今日も「黒猫と食パン」から始まる。特別な出来事があるわけでもない、ただの日常の一コマ。けれど、こういう何気ない時間こそが、案外いちばん大切なのかもしれないと、トーストの湯気を眺めながらふと思う。


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