2026年7月15日水曜日
黒猫と庭のキュウリ
夏の朝、黒猫は縁側に座っていた。
庭には、昨日まで見なかった黄色い花が咲いている。
大きな緑の葉の下から、細長いキュウリが一本だけ顔を出していた。
黒猫は庭へ下りると、キュウリの前まで静かに歩いていった。
初めて見るものではない。
けれど、昨日よりも少し長くなっていることが、どうしても気になった。
黒猫は鼻を近づけ、そっと匂いを確かめた。
キュウリは何も言わず、朝露をまとったまま、葉の陰で揺れている。
風が吹くたびに葉が重なり、庭の中に小さな波のような音が広がった。
黒猫はキュウリの隣に座り、しばらくその音を聞いていた。
昼になると、庭には強い日差しが落ちてきた。
黒猫は涼しい縁側へ戻ったが、ときどき顔を上げてキュウリの様子を見た。
誰かに取られてしまわないか、鳥につつかれないか、少しだけ心配しているようだった。
夕方、家の人が庭へやってきた。
よく育ったキュウリを見つけると、うれしそうに手を伸ばした。
黒猫は縁側から、その様子をじっと見つめていた。
キュウリが枝から離れると、葉が軽く揺れた。
いつもそこにあった緑色が消え、庭には少しだけ広い隙間ができた。
その夜、食卓には薄く切られたキュウリが並んだ。
黒猫は食べることもなく、皿のそばで静かに鼻を動かした。
朝まで庭にいたものが、今は家の中にいる。
それが不思議なのか、黒猫はしばらく皿から離れなかった。
次の日の朝、黒猫が庭へ行くと、葉の奥に小さなキュウリがもう一本育っていた。
黒猫は昨日と同じ場所に座り、その小さな緑色を見つめた。
庭では、気づかないうちに何かが育ち、いつの間にか姿を変えていく。
黒猫は今日も、その静かな変化を見守っていた。
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