2026年7月12日日曜日

黒猫とアサガオ

黒猫とアサガオ

夏の朝、黒猫はいつもより少し早く目を覚ました。

古い木の窓から、白くやわらかな光が差し込んでいた。

庭では、青いアサガオが一輪だけ咲いている。

昨日までは、まだ固く閉じたつぼみだった。

黒猫は窓辺へ飛び乗り、丸い目で花を見つめた。

朝の風が吹くたびに、薄い花びらが静かに揺れている。

「昨日はいなかったのに」

黒猫はそう思いながら、窓の隙間から庭へ出た。

冷たい土を踏み、小さな鉢の前まで歩いていく。

アサガオは空へ顔を向け、朝の光を受け止めていた。

黒猫が鼻先を近づけると、花びらに残っていた朝露が一粒だけ落ちた。

それは黒猫の前足に触れ、すぐに見えなくなった。

黒猫は驚いて前足を持ち上げたが、アサガオは何事もなかったように揺れている。

夏の日差しが強くなると、花は少しずつ元気を失っていった。

朝には大きく開いていた花びらが、昼を過ぎるころには静かに閉じ始めた。

黒猫は縁側の日陰から、その様子をじっと見ていた。

せっかく咲いたのに、もう終わってしまうのだろうか。

夕方、青い花は小さくしぼみ、朝の姿を思い出せないほど細くなっていた。

黒猫は少し寂しくなり、鉢のそばに座った。

けれど、細い緑のつるをよく見ると、その先には新しいつぼみがあった。

ひとつだけではない。

葉の陰にも、その奥にも、小さなつぼみが静かに並んでいた。

黒猫はしっぽを一度だけ揺らした。

今日の花は、もう戻らない。

それでも明日の朝には、別の花が咲くのかもしれない。

次の日、黒猫はまた早く目を覚ました。

窓の向こうには、昨日より少し淡い色をしたアサガオが咲いていた。

黒猫は急がずに窓辺へ座り、夏の朝にだけ現れる花を静かに眺めた。

毎日同じように見える朝にも、昨日とは違う何かが咲いている。

そのことを、黒猫はアサガオから教えてもらった。


ここまで読んでくれて、ありがとうございます

PR
楽天市場

よろしければ、
そっとのぞいてみてください


0 件のコメント:

コメントを投稿