夏の朝、台所の窓から、やわらかな光が入ってきました。
木のテーブルの上には、丸いメロンがひとつ置かれていました。
淡い緑色の網目をまとったその果物は、まるで小さな宝物のように、静かにそこにありました。
黒猫は椅子の上にちょこんと座り、そのメロンをじっと見つめていました。
鼻を少し近づけると、甘くて涼しい香りがしました。
それは花の香りでも、草の香りでもなく、夏の中に少しだけ隠れている、特別な時間の匂いでした。
黒猫は前足をそろえたまま、しばらく動きませんでした。
メロンの向こう側では、白いカーテンが風に揺れていました。
外ではセミが鳴きはじめ、遠くの道を自転車が通り過ぎていきました。
けれど台所の中だけは、時間がゆっくり流れているようでした。
やがて家の人がやってきて、メロンに包丁を入れました。
すっと刃が入る音がして、部屋の中に甘い香りが広がりました。
黒猫は少し目を細めました。
半分に切られたメロンの中は、朝の光を吸い込んだように淡く輝いていました。
種のまわりには、やわらかな水分がきらきらしていました。
黒猫は食べるわけではありません。
ただ、その香りと、色と、静かな朝の気配を、そっと眺めているだけでした。
小さなお皿に切られたメロンが並ぶと、台所は少しだけ特別な場所になりました。
いつものテーブル。
いつもの椅子。
いつもの窓辺。
それなのに、そこにメロンがあるだけで、夏の朝は物語の一ページのように見えました。
黒猫はしっぽをゆっくり動かしながら、窓の外を見ました。
空は明るく、雲は白く、今日も暑くなりそうでした。
けれど、メロンの甘い香りが残る台所には、少しだけ涼しい風が流れていました。
黒猫は最後にもう一度、テーブルの上のメロンを見つめました。
それは食べものというより、夏が置いていった小さな贈り物のようでした。
何でもない朝。
けれど、黒猫とメロンがそこにいるだけで、その朝は少しだけ忘れられないものになりました。
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