2026年7月3日金曜日

黒猫とメロン

黒猫とメロン

夏の朝、台所の窓から、やわらかな光が入ってきました。

木のテーブルの上には、丸いメロンがひとつ置かれていました。

淡い緑色の網目をまとったその果物は、まるで小さな宝物のように、静かにそこにありました。

黒猫は椅子の上にちょこんと座り、そのメロンをじっと見つめていました。

鼻を少し近づけると、甘くて涼しい香りがしました。

それは花の香りでも、草の香りでもなく、夏の中に少しだけ隠れている、特別な時間の匂いでした。

黒猫は前足をそろえたまま、しばらく動きませんでした。

メロンの向こう側では、白いカーテンが風に揺れていました。

外ではセミが鳴きはじめ、遠くの道を自転車が通り過ぎていきました。

けれど台所の中だけは、時間がゆっくり流れているようでした。

やがて家の人がやってきて、メロンに包丁を入れました。

すっと刃が入る音がして、部屋の中に甘い香りが広がりました。

黒猫は少し目を細めました。

半分に切られたメロンの中は、朝の光を吸い込んだように淡く輝いていました。

種のまわりには、やわらかな水分がきらきらしていました。

黒猫は食べるわけではありません。

ただ、その香りと、色と、静かな朝の気配を、そっと眺めているだけでした。

小さなお皿に切られたメロンが並ぶと、台所は少しだけ特別な場所になりました。

いつものテーブル。

いつもの椅子。

いつもの窓辺。

それなのに、そこにメロンがあるだけで、夏の朝は物語の一ページのように見えました。

黒猫はしっぽをゆっくり動かしながら、窓の外を見ました。

空は明るく、雲は白く、今日も暑くなりそうでした。

けれど、メロンの甘い香りが残る台所には、少しだけ涼しい風が流れていました。

黒猫は最後にもう一度、テーブルの上のメロンを見つめました。

それは食べものというより、夏が置いていった小さな贈り物のようでした。

何でもない朝。

けれど、黒猫とメロンがそこにいるだけで、その朝は少しだけ忘れられないものになりました。


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