2026年8月8日土曜日

電車を待っている猫

電車を待っている猫

ホームのベンチに、当たり前のような顔をして座っている一匹の猫がいる。背筋をぴんと伸ばし、線路の向こうをじっと見つめるその姿は、まるで誰かの帰りを待っているようにも、これから旅に出ようとしているようにも見える。

駅というのは不思議な場所だ。行き交う人はみな忙しなく、スマートフォンの画面や時計に目を落としながら、次の電車のことばかり考えている。そんな慌ただしい空気の中で、猫だけがゆっくりと時間を過ごしている。急ぐ理由も、焦る理由もない。ただそこに座り、風の匂いを嗅ぎ、遠くの音に耳を澄ませているだけだ。

アナウンスが響き、電車が滑り込んでくる。ドアが開き、大勢の人が乗り降りする慌ただしい数十秒間も、猫はぴくりとも動かない。まるでその音に慣れきっているかのように、あるいはその賑わいさえも日常の一部として受け入れているかのように。

電車が走り去ったあとのホームは、また静けさを取り戻す。猫はふう、と息をつくように毛づくろいを始める。次の電車を待っているのか、それともただそこにいるのが好きなだけなのか、それは誰にもわからない。

こういう瞬間に出会うと、なんだか自分の中の忙しさが少しだけ緩む気がする。次の予定、片付けなければいけない用事、頭の中を巡るいくつもの「やること」。そんなものを一旦脇に置いて、ただ電車を待つ猫を眺めているだけの時間。それだけで、心のどこかがふっと軽くなる。

猫にとっては、駅もまた自分の縄張りの一部なのかもしれない。人間が作った線路も改札も、猫からすればただの通り道であり、休憩場所であり、日向ぼっこの特等席なのだろう。人と猫、それぞれの目的も時間の流れ方もまったく違うのに、同じホームで同じ時間を共有している。その不思議な距離感が、なんともいえず心地よい。

もし駅で電車を待っている猫を見かけたら、少しだけ足を止めてみてほしい。写真を撮るのもいいし、ただ静かに見つめるだけでもいい。きっとその一瞬が、慌ただしい一日の中でひとつの小さな癒しになるはずだ。


ここまで読んでくれて、ありがとうございます

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