2026年8月18日火曜日

猫の円陣

猫の円陣

猫たちが夕暮れの神社の境内に集まってくる。誰が呼びかけたわけでもないのに、いつの間にか輪ができている。

三毛猫のミケは、いつもいちばん最初にやってくる。石段の下から境内を見上げ、誰もいないことを確かめてから、静かに石畳の中央に座る。それが合図のようなものだった。

次にやってくるのは黒猫のクロ。塀の上を音もなく歩き、ひらりと地面に降り立つと、ミケから少し離れた位置に腰を下ろす。二匹の間には何の会話もない。ただ、互いの存在を確かめるように、一瞬だけ目が合う。

やがて茶トラのトラ、白猫のユキ、そして子猫のコマチが順番に姿を現す。それぞれが決まった場所を知っているかのように、円を描くように座っていく。誰かが場所を教えたわけでもないのに、毎晩同じ配置になるのが不思議だった。

風が境内の木々を揺らし、葉擦れの音が響く。猫たちは互いに顔を見合わせることもなく、それぞれ違う方向を向いている。ある者は空を、ある者は地面を、ある者はただ目を閉じている。会議をしているようにも見えるし、ただ寄り添っているだけのようにも見える。

コマチだけが落ち着かない様子で、しっぽを小さく揺らしていた。初めてこの輪に加わったのは先週のことだ。最初は怖くて遠くから眺めているだけだったが、ミケがそっと場所を空けてくれたのを覚えている。あの夜から、コマチもこの円陣の一員になった。

どれくらいの時間が経っただろうか。月が境内の上に昇りきった頃、ミケがゆっくりと立ち上がる。それを合図に、猫たちは一匹ずつ、来た時と同じように静かに散っていく。誰も見送ることはない。ただ、明日の夕暮れにまたここで会うことを、それぞれが知っているだけだ。

最後に残ったコマチは、しばらく円の中心に座ったまま、消えていく仲間たちの気配を感じていた。そしてふと、自分もいつか、あのミケのように最初にこの場所へやってくる日が来るのだろうかと、そんなことを考えながら、静かに石段を降りていった。


ここまで読んでくれて、ありがとうございます

PR
楽天市場

よろしければ、
そっとのぞいてみてください


0 件のコメント:

コメントを投稿