2026年8月22日土曜日
マットレスに寝ているマンチカン
窓の外で、夕方の風が網戸を小さく揺らしていた。
部屋の隅に置かれた新品のマットレス。まだ梱包のビニールの匂いがうっすらと残るそのマットレスの上に、一匹のマンチカンがすでに陣取っていた。名前はモコ。短い脚と丸い顔が特徴の、この家の小さな主だ。
「モコ、そこ今日届いたばっかりなんだけど……」
飼い主がそう声をかけても、モコは片耳をぴくりと動かすだけで、目を開ける気配はなかった。まるで「ここは私のものだ」と言わんばかりに、マットレスの真ん中に丸くなっている。
そのマットレスは、飼い主が長い時間をかけて選んだものだった。腰痛持ちの飼い主のために、低反発と高反発のバランスを何度も比較し、口コミサイトを何時間も読み込み、ようやく届いた品だった。開封したばかりの真新しい表面には、まだ誰の体重も跡をつけていない。
そこに、真っ先に体を預けたのはモコだった。
短い前脚を体の下に折りたたみ、まるで置物のような姿勢で、マットレスの弾力を確かめるように少しだけ体を沈めている。ふわふわの毛並みが、白いマットレスカバーの上でひときわ柔らかく見えた。
飼い主は苦笑いをしながら、そっとカメラを取り出した。
「まあ、いいか。最初の使用者は猫、っていうのも悪くない」
シャッター音にも、モコはまったく動じなかった。夢の中にいるのか、時折ひげがぴくりと震える。呼吸に合わせてお腹がゆっくりと上下する様子は、まるで小さな波のようだった。
しばらくして、飼い主もそっと隣に腰を下ろした。マットレスはわずかに沈み、モコの体もつられて少しだけ傾く。それでも目を覚ますことはなく、むしろ安心したように体をさらに丸めた。
外はすっかり暗くなり、部屋には間接照明の柔らかい光だけが灯っていた。マットレスの上には、疲れた人間と、眠り続ける猫。ただそれだけの、何でもない夜だった。
けれど飼い主は、なぜだかその瞬間がとても幸せに思えた。新しいマットレスの寝心地よりも、隣で丸くなる小さな体温のほうが、ずっと価値のあるものに感じられたからだ。
モコは今夜も、誰よりも先にこのマットレスの寝心地を独り占めしている。
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