2026年8月19日水曜日

ぬいぐるみと遊ぶマンチカンという猫

ぬいぐるみと遊ぶマンチカンという猫

 午後の光が畳の上に長く伸びる頃、その部屋の主役はいつも決まっていた。短い足で、まるで大地に根を張るように歩くマンチカン。名前はまだ、この物語には必要ない。

 彼女のお気に入りは、色あせたウサギのぬいぐるみだった。耳の片方はもう千切れかけていて、綿が少しだけ顔を覗かせている。それでも彼女にとっては、世界でいちばん大切な獲物であり、友達でもあった。

 「さあ、今日も始めようか」

 そう言わんばかりに、彼女はぬいぐるみの前にどっしりと座り込んだ。短い前足で、そっとウサギの耳に触れる。反応がないことを確かめると、今度は少し強く、ぽん、と叩いた。

 ぬいぐるみは倒れない。当然だ、ただの布と綿の塊なのだから。だが彼女の目には、その静けさこそが挑発に映るらしい。瞳孔がきゅっと丸くなり、体勢が低くなる。お尻がふりふりと左右に揺れ始めた——狩りの合図だ。

 跳んだ。

 短い足からは想像もつかないほどの跳躍力で、彼女はウサギに飛びかかった。前足でがっちりと抱きしめ、後ろ足でリズムよく蹴り上げる。まるで、これが人生でいちばん重要な仕事だとでもいうように。

 しばらく格闘が続いた後、彼女はふと動きを止めた。ウサギを咥えたまま、部屋の隅へゆっくりと運んでいく。まるで獲物を巣に持ち帰る野生の血が、彼女の中にほんの少しだけ残っているかのようだった。

 運び終えると、満足げにウサギの隣に寝そべる。荒い息が次第に落ち着き、瞼が重くなっていく。今日の狩りは、これで終わり。

 窓の外では夕焼けが色を深めていた。彼女はウサギに顔を寄せ、そっと目を閉じる。短い足も、丸い体も、すべてが眠りの中に溶けていった。

 明日もきっと、同じ時間に狩りは始まる。何度繰り返しても、彼女にとってそれは新しい冒険なのだから。


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