2026年9月10日木曜日

マンチカンという猫の散歩

マンチカンという猫の散歩

 朝の光が、まだやわらかい色をしていた。

 私が玄関でリードを手に取ると、足の短いマンチカンのモモは、もうすでにこちらを見上げていた。散歩に行くことは、言葉にしなくても伝わるらしい。しっぽの先が小さく揺れて、瞳がきらきらと輝いている。

「今日はどこまで行こうか」

 そう声をかけると、モモは返事をするように「みゃあ」と鳴いた。まるで、行き先を決めるのは自分だと言わんばかりに。

 玄関を出ると、ひんやりとした空気が頬をなでた。モモの短い脚は、他の猫よりもずっと地面に近い。だからこそ、彼女の見ている景色は、私が思うよりもずっと近くて、ずっと丁寧なものなのかもしれない。

 道端の草むらに差しかかると、モモの足取りがゆっくりになった。何かの匂いを嗅ぎつけたようで、鼻をひくひくと動かしながら、じっと草の間をのぞき込んでいる。急かすことはしない。この時間こそが、散歩の醍醐味だから。

 少し歩くと、小さな公園に着いた。ベンチの下の日陰に、モモはすとんと座り込んだ。短い脚をたたんで丸くなる姿は、まるでどら焼きのようで、思わず笑ってしまう。

 風が吹くと、モモの耳がぴくりと動いた。遠くで聞こえる鳥の声に、じっと耳をすませている。その横顔は真剣で、まるで小さな探検家のようだった。

「そろそろ帰ろうか」

 声をかけると、モモは名残惜しそうに一度だけ辺りを見回してから、ゆっくりと立ち上がった。短い脚で、ちょこちょこと歩くその後ろ姿を見ながら、私は思う。急ぐことなんて、何もないのだと。

 家に着く頃には、朝の光はもうすっかり眩しくなっていた。モモは満足そうに大きく伸びをして、水を一口飲むと、お気に入りの場所でくるりと丸くなった。

 今日という日の、小さくて確かな幸せ。

 それは、足の短い一匹の猫が、教えてくれたものだった。


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