2026年9月6日日曜日

大きな木とメインクーンという猫

大きな木とメインクーンという猫

大きな木の下で、その猫はいつも同じ場所に座っていた。

村外れの丘に立つ一本の楠は、樹齢何百年とも言われ、村人たちからは「見守りの木」と呼ばれていた。太い幹には長い年月の皺が刻まれ、枝は空を覆うように四方へ伸びている。その根元に、ふわりとした毛並みの大きな猫が現れるようになったのは、去年の秋のことだった。

名前はまだ誰も知らない。ただ、体の大きさと立派なたてがみのような毛から、村の子どもたちは「メインクーンだ」と口々に言った。実際、その猫は普通の猫の倍近くもある堂々とした体格をしていて、木の根に寄りかかると、まるで木の一部であるかのように馴染んでいた。

「今日もいるね」

学校帰りの少女、ひなたは、毎日その木の前を通るのが習慣になっていた。猫は最初こそ警戒していたが、ひなたが石の上にそっと座って本を読むようになると、少しずつ距離を縮めていった。今では、ひなたが木の下に腰を下ろすと、猫のほうから歩み寄ってきて、隣にどさりと体を横たえる。

大きな体を丸め、太い尻尾をゆっくりと揺らしながら、猫は風の音に耳を澄ませているようだった。木の葉がさわさわと鳴るたび、金色の瞳がわずかに動く。まるで、この木と交わす会話を、誰にも邪魔されたくないとでも言うように。

「あなたも、この木が好きなのね」

ひなたがつぶやくと、猫はゆっくりと瞬きをした。それは肯定とも、ただの眠気とも取れる仕草だったけれど、ひなたにはそれで十分だった。

夕暮れが近づくと、木の影は丘全体を包み込むように長く伸びる。その影の中で、大きな猫と小さな少女は、言葉を交わさなくても通じ合う何かを分かち合っていた。木もまた、二人の背中をそっと支えるように、静かに枝を揺らしていた。

季節が巡り、木の葉の色が変わっても、猫はそこにいる。大きな木と、大きな猫と、小さな少女。三つの存在が寄り添う丘の風景は、村でいちばん穏やかな時間として、これからも静かに続いていくのだろう。


ここまで読んでくれて、ありがとうございます

PR
コータのAmazonページへ

よろしければ、
のぞいてみてください


0 件のコメント:

コメントを投稿