2026年8月19日水曜日

枕が好きな猫

枕が好きな猫

その家には、少し変わった猫が暮らしている。

名前はモカ。短い脚に丸い体、マンチカンという犬種のような愛らしい名前を持つ猫種だ。他の猫と違うところがあるとすれば、それはとにかく枕が好きだということだった。

朝、飼い主が目を覚ますよりも先に、モカはいつも寝室の枕の上にいる。正確に言えば、枕の上で丸くなっているのではなく、枕を抱きかかえるようにして眠っているのだ。短い前脚でしっかりと枕を挟み込み、顔をうずめて、時折くぐもった寝息を立てる。

「また占領されてる」

飼い主は毎朝そう呟きながら、モカがいない方の枕に頭をのせる。長年連れ添った恋人のように、モカと枕は片時も離れない。

昼間になると、モカの枕への執着はさらに顕著になる。ソファに置かれたクッションでは満足しない。あくまで「枕」でなければならないのだ。リビングに持ち出された予備の枕を見つけると、モカは短い脚で懸命によじ登り、その上でごろりと横になる。まるでそこが世界で一番安全な場所だとでも言うように。

来客があった日のことだった。友人が泊まりに来て、客間に枕をふたつ用意した。夜、友人が眠りにつこうとしたとき、扉の隙間からするりと影が滑り込んできた。モカだった。

友人が使っていない方の枕に、モカはそっと体を寄せた。前脚で枕をぎゅっと抱き、顔をうずめる。そして小さくため息をつくように鳴くと、すぐに寝息を立て始めた。

「この子、本当に枕が好きなんだね」

翌朝、友人は笑いながらそう言った。飼い主は苦笑いを浮かべつつ答えた。

「枕さえあれば、どこでも眠れるんです。むしろ枕がないと落ち着かないみたいで」

そういえば、と飼い主は思い出す。まだ子猫だった頃、モカは小さな体でクッションの隙間に潜り込んでは眠っていた。もしかすると、あの頃の記憶が、今も枕への愛着として残っているのかもしれない。柔らかくて、包み込まれるような安心感。それがモカにとっての枕なのだろう。

夕暮れ時、窓から差し込む光の中で、モカはまた枕の上にいた。丸まった背中がゆっくりと上下する。短い脚を投げ出し、時折ぴくりと耳を動かしながら、心地よさそうに眠っている。

その姿を眺めながら、飼い主はふと思う。

人にとっての枕が、ただの寝具であるように、モカにとっての枕もまた、ただの寝具にすぎないのかもしれない。けれど、その小さな体を優しく受け止めてくれる枕の存在は、モカにとって何よりも大切な、特別な居場所なのだろう。

今日も、モカは枕を抱いて眠る。

その寝顔は、まるで世界で一番幸せな夢を見ているかのようだった。


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