2026年8月18日火曜日
立ってこちらを見ているマンチカン
台所の床に、夕方の光が斜めに差し込んでいた。
冷蔵庫を開けようとしゃがんだ瞬間、視線を感じた。振り返ると、後ろ足だけで立ち上がったマンチカンが、まっすぐにこちらを見ていた。短い前足を胸の前でそろえ、丸い目は瞬きひとつしない。
「……何?」
声をかけても、答えるはずがない。それでも、その姿はまるで何かを訴えているようだった。マンチカンは足が短い分、立ち上がった姿が妙に人間くさい。まるで「ねえ、ちょっとこっち見て」と言いたげに、じっとこちらの出方をうかがっている。
思い返せば、この子がこうして立つのはいつも決まった時間だった。夕方、ごはんの支度が始まる少し前。台所に人の気配がすると、どこからともなく現れて、後ろ足で立ち、視線だけで交渉してくる。言葉はいらない。その立ち姿がすべてを語っていた。
「わかったわかった、ちょっと待って」
そう言うと、マンチカンはすとんと四本足に戻り、足元をぐるりと一周した。満足したのか、それとも交渉が成立した合図なのか。短い足でとことこと歩く後ろ姿を見送りながら、思わず笑ってしまう。
立ち上がって見つめてくるあの数秒間だけ、この子は誰よりも雄弁だった。言葉を持たない生き物が、まなざしひとつでこれほど何かを伝えてくるとは。
冷蔵庫のドアを閉め、缶を手に取る。足音を聞きつけたのか、マンチカンはもう定位置で待っていた。今度は立ち上がらず、ただ静かに座って、こちらを見上げている。
それもまた、何かの合図なのだろう。
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