2026年8月20日木曜日
川で魚をみつけた猫
朝の光がまだ柔らかい時間、トラ猫のミケは河原の草むらを歩いていた。誰かに飼われているわけでもなく、かといって完全な野良でもない。近所のおばあさんが時々ご飯をくれる、そんな半分自由な暮らしをしている猫だった。
この日は特に理由もなく、いつもより少し遠くまで足を延ばしていた。土手を下りると、川の水音が急に大きくなる。せせらぎは昨日の雨のせいか少し勢いを増していて、水面が朝日を受けてきらきらと揺れていた。
ミケは水際に近づき、じっと川面を見つめた。猫は基本的に水が苦手だが、見るだけなら話は別だ。むしろ、あの落ち着かない光の揺らめきには妙に心を引かれるものがある。
しばらく眺めていると、浅瀬の岩陰で何かが動いた。銀色の影がすっと横切り、また岩の陰に隠れる。
——魚だ。
ミケの瞳孔が一瞬でまん丸に開いた。尻尾の先がぴくりと小さく揺れる。狩りの本能が、眠っていた場所からゆっくりと起き上がってくるのがわかった。
前足をそっと水際に置いてみる。冷たい。思わず引っ込めた。それでも視線だけは魚から離さない。岩陰の魚は、まるでミケをからかうように、時々姿を見せては水草の間に消えていった。
どれくらいそうしていただろうか。ミケは前足を出したり引っ込めたりを繰り返しながら、結局一度も水の中に飛び込むことはなかった。濡れるのは嫌だ。でも、あの銀色の動きから目を離すこともできない。そんな葛藤のまま、猫はただじっと水辺に座り続けていた。
やがて日が高くなり、川面の光がさらに眩しくなる頃、ミケはふと我に返ったように体を伸ばし、大きなあくびをした。魚を捕まえられなかったことに、特に悔しさはないようだった。捕れても捕れなくても、この時間そのものが悪くなかったからだ。
水音を背に、ミケはゆっくりと土手を上っていく。振り返ると、川はさっきと変わらず静かに流れていて、あの銀色の魚はもうどこにも見当たらなかった。
それでもミケは、また今度ここに来ようと決めていた。魚がいてもいなくても、この場所には何か、猫の心をくすぐるものがある気がしたから。
河原の草が風に揺れる中、トラ猫の後ろ姿は、いつものように気まぐれな足取りで町の方へと戻っていった。
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