2026年9月10日木曜日
マンチカンとみかん
縁側に、小さな籠が置かれていた。
秋の陽射しが低く差し込む午後、その籠の中には、収穫されたばかりのみかんが山になって積まれている。橙色の実は、まだ木の葉の匂いをまとっていた。
そこへ、短い足でとぼとぼと歩いてくる影があった。マンチカンのももだ。丸い体を左右に揺らしながら、籠の前までやってくると、じっと動きを止めた。
みかんを見るのは、初めてではない。けれど、こうして目の前に積まれた姿を見るのは久しぶりだった。ももは首を傾げ、鼻先をそっと近づけた。ひんやりとした皮の匂いが、鼻をくすぐる。少し酸っぱいような、少し甘いような、不思議な香りだった。
前足をそっと籠のふちにかけて、体を伸ばす。短い足では籠の中まで届かないけれど、それでも精一杯背伸びをして、一番上のみかんに鼻をこすりつけた。ころん、と実が揺れる。その小さな動きに驚いたのか、ももは一歩後ずさりして、また同じ姿勢で籠を見上げた。
「気になるの?」
縁側に座っていた老婦人が、編み物をする手を止めて笑った。ももはその声にちらりと視線を向けたけれど、みかんへの興味はまだ消えていない。そろりそろりと籠に近づき、今度は前足でみかんの表面をぺたぺたと触ってみる。ざらついた皮の感触が、肉球に伝わってくる。転がりそうで転がらない、その不安定な感じが、なんだか楽しいらしい。
しばらくすると、ももは満足したように籠から離れ、縁側の陽だまりの中にすとんと座り込んだ。丸くなった背中に、秋の光が柔らかく降り注ぐ。少し離れた籠の中で、みかんたちは静かに橙色の輝きを保っていた。
風が吹くと、庭の柿の葉がさらさらと音を立てた。ももは目を細めて、その音にじっと耳を澄ませている。みかんの籠と、丸くなった小さな猫。それだけの光景が、なぜだかとても穏やかで、時間がゆっくりと流れているように感じられた。
やがて日が傾き、縁側に長い影が伸びる頃、ももはもう一度籠のほうを見た。まるで「また今度」と言うように、小さくひとつ欠伸をして、それから静かに目を閉じた。
秋の午後は、そうしてゆっくりと暮れていった。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます
PR
コータのAmazonページへ
よろしければ、
のぞいてみてください
登録:
コメントの投稿 (Atom)

0 件のコメント:
コメントを投稿