2026年9月17日木曜日

水溜まりとメインクーンという猫

水溜まりとメインクーンという猫

雨上がりの午後だった。

アスファルトのあちこちに、鏡のような水溜まりができていた。空はまだ灰色がかっていたけれど、その隙間から差し込む光が、水面をきらきらと震わせている。

そこへ、大きな体をゆったりと揺らしながら歩いてくる猫がいた。ふさふさの尻尾、耳の先にぴんと伸びた飾り毛、まるでライオンの子どものような堂々とした足取り。メインクーンだった。

彼は水溜まりの前で立ち止まると、じっとそれを見つめた。水の中には、灰色の空と、自分自身の姿が映っている。前足をそっと持ち上げ、水面にほんの少しだけ触れてみる。ぴちゃん、と小さな音が響いて、映っていた自分の顔が波紋の中に崩れていった。

「なんだ、逃げていくのか」

そう言いたげに、彼は首をかしげた。波紋が収まると、また元通りの自分が水の中に現れる。メインクーンはもう一度、今度はもっとそっと、指先だけで水面を撫でた。ふわり、と輪が広がって消えていく。何度も、何度も。まるでその繰り返しの中に、何か大切なものを見つけたかのように。

近くの塀の上では、雨上がりの匂いを嗅ぎつけたスズメが数羽、羽を休めていた。メインクーンはちらりとそちらへ目をやったが、すぐにまた水溜まりに視線を戻した。追いかけるでもなく、ただそこにいる。急ぐ理由なんて、どこにもなかった。

しばらくすると、雲の切れ間が広がり、水溜まりの中に淡い青空が映り込んだ。メインクーンはその青を見つめたまま、ゆっくりと腰を下ろす。濡れたアスファルトの冷たさが、少しだけ体温を奪っていくのが心地よかった。

風が吹くたびに、水面が揺れて、映る空の色が微妙に変わる。灰色から、水色へ。水色から、また灰色へ。彼はまばたきひとつせずに、その変化を見届けていた。

やがて、日差しが少しずつ強くなり、水溜まりの端からゆっくりと乾いていく気配がした。メインクーンは名残惜しそうに一度だけ水面に鼻先を近づけると、くしゃみをひとつして、また来た道をのんびりと戻っていった。

水溜まりだけが、そこに残された空を映しながら、静かに小さくなっていった。


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