2026年9月13日日曜日
ニンジンとマンチカン
短い脚でトコトコと台所へやってきたのは、マンチカンのハルだった。名前の由来は"晴れ"。生まれた日がよく晴れていたからだと、飼い主の佳奈はいつも笑いながら話す。
その日、佳奈がまな板の上に置いていたのは、大きなニンジンだった。夕飯のカレー用に買ってきたばかりで、まだ土の匂いがほんのり残っている。ハルは短い足を精一杯伸ばして、テーブルの脚に前足をかけた。
「こら、ハル。それはあなたのごはんじゃないのよ」
佳奈がそう声をかけても、ハルの視線はニンジンから離れない。オレンジ色の細長い物体は、ハルにとって未知の生き物のように見えているのかもしれなかった。ぴくり、ぴくりと動く尻尾が、興味の高まりを物語っていた。
佳奈がふと目を離した隙に、ニンジンはカウンターから床へところりと転がり落ちた。ハルはその瞬間を見逃さなかった。短い脚に似合わない俊敏さで駆け寄ると、前足でそっとニンジンをつついた。
コロン、と小さな音を立ててニンジンが転がる。ハルの瞳がまん丸に見開かれた。まるで初めて動くおもちゃに出会った子どものように、もう一度、もう一度と前足でニンジンを転がしては、その動きを目で追いかける。
「あらあら、遊び相手を見つけちゃったのね」
佳奈はニンジンを取り上げようとしたが、あまりに一生懸命なハルの姿に、しばらく好きにさせてあげることにした。マンチカンの短い脚が、床の上でニンジンを追いかけて右へ左へと動き回る。その姿はどこかコミカルで、見ているだけで頬が緩んでしまう。
やがて満足したのか、ハルはニンジンのそばにぺたりと寝そべった。まるで狩りを終えた獲物を守るハンターのように、オレンジ色の"戦利品"に寄り添って目を閉じる。
窓から差し込む夕方の光が、丸まったハルの背中とニンジンをやわらかく照らしていた。台所には、静かで穏やかな時間が流れていた。
その日の夕飯のカレーには、ニンジンが一本、いつもより小さくカットされて入っていたという。少しだけ、ハルの前足の匂いがついていたのかもしれない。
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