2026年9月14日月曜日
白い猫と黒猫
古い商店街の角に、小さな古本屋があった。看板の文字はとうに色褪せて、扉を開けるたびに鈴の音が控えめに響く。その店の奥、埃をかぶった詩集の棚の下に、いつからか二匹の猫が住み着いていた。
一匹は真っ白な猫。もう一匹は夜そのもののような黒猫だった。誰が名付けたわけでもないが、店主は白い猫を「雪」、黒い猫を「墨」と呼んでいた。
雪はいつも窓辺の陽だまりで丸くなり、通りを眺めていた。人が本を選ぶ音、ページをめくる音、そういう静かな音が好きらしかった。一方の墨は、棚と棚の隙間にするりと入り込み、誰にも見つからない場所で本の匂いを嗅いでいるのが好きだった。二匹はまるで正反対の性格だったが、いつも決まって同じ場所で眠った。古びた詩集の隣、光と影がちょうど半分に分かれる場所で。
ある雨の日のことだった。客の少ない午後、雪が珍しく棚の奥へ入っていった。そこには墨がいて、一冊の古い本のページに前足をそっと乗せていた。表紙も題名もわからないほど傷んだその本を、墨はじっと見つめていた。雪はそばに寄り、同じように本を見た。二匹はしばらく、そうして並んでいた。
店主がふと様子を見に来たとき、二匹はもう本から離れて、いつもの陽だまりへ戻っていた。ただ、その本だけが、棚から少しだけ外へ出ていた。まるで誰かに読んでほしいと言っているように。
店主はその本を手に取り、埃を払って、レジの横に置いた。題名は「白い猫と黒猫」と、消えかけた文字でうっすら読めた。
雪と墨は、それからも変わらず陽だまりと棚の隙間で過ごした。光と影のように違う二匹だったが、同じ静けさを分け合っていることに、二匹はきっと気づいていた。
新しい記事ですね。「本」ジャンルのタイトルとして記録しておきます。他にも短編小説風の記事が必要になったら、いつでも声をかけてください。
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