2026年9月12日土曜日

黒猫とコスモス

黒猫とコスモス

黒猫とコスモスの丘に、その日も一匹の黒猫がやってきた。

秋風が吹き抜ける丘一面に、ピンクと白のコスモスが揺れている。夕暮れ時、光は橙色に染まり、花びらの影が長く伸びていた。黒猫は畑の畦道をゆっくりと歩き、時折立ち止まってはコスモスの茎に鼻先を寄せた。

この丘に猫が姿を見せるようになったのは、いつからだろう。近所に住むおばあさんは、毎年コスモスが咲く頃になると、決まって同じ黒猫を見かけると言う。誰の飼い猫でもないその猫は、まるで花が咲くのを待っていたかのように、季節が巡るたびにふらりと現れるのだった。

黒猫は風に揺れる花の間を縫うように進み、丘のてっぺんで足を止めた。眼下には赤や黄色に色づき始めた田んぼが広がり、遠くには夕焼けに染まる山並みが見える。猫はしばらくその景色を眺めていたが、やがて花畑の中にすとんと座り込み、丸まって目を閉じた。

コスモスの茎が風に揺れるたび、猫の黒い毛並みに柔らかな影が落ちる。花と猫、その対照的な色合いが、夕暮れの丘に静かな絵のような時間を作り出していた。

日が沈みきる少し前、猫はふと目を開け、耳をぴくりと動かした。遠くで聞こえる虫の声に応えるように小さく鳴くと、また元の場所に戻って、丘の上でひとり夕暮れを見送った。

明日もまた、風が吹けばコスモスは揺れる。そしてその花畑のどこかに、きっとまたあの黒猫の姿があるのだろう。誰に教えられたわけでもないのに、季節の移ろいを一番よく知っているのは、もしかしたらこの小さな黒猫なのかもしれない。


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