2026年8月26日水曜日

黒猫とヒマワリ

黒猫とヒマワリ

夏の陽射しが強く降り注ぐ、ある田舎町のこと。

畑の隅に一本、背の高いヒマワリが咲いていた。周りの株よりも一回り大きく、太陽に向かって真っ直ぐに顔を上げている。そのヒマワリの根元に、いつからか一匹の黒猫が住み着くようになった。

黒猫の名前は、誰も知らない。首輪もなく、どこから来たのかも分からない。ただ、朝になるとヒマワリの影の中に丸くなっていて、夕方になるとどこかへ姿を消す。そんな生活を繰り返していた。

ヒマワリの影は、他のどんな場所よりも心地よかった。大きな葉が日差しを遮り、風が通り抜けるたびに、涼しい匂いがした。黒猫はその場所を、自分だけの特等席だと思っているようだった。

ある日、畑の持ち主である老人が、水やりのためにやってきた。老人はヒマワリに水をあげながら、その根元にいる黒猫に気づいた。

「お前、いつもここにいるな」

老人がそう声をかけても、黒猫は逃げようとしなかった。ただ、片方の耳をぴくりと動かして、老人の方をちらりと見ただけだった。それから、また何事もなかったかのように目を閉じた。

老人は毎日、水やりのついでに黒猫の様子を見るようになった。餌をあげるわけでもなく、無理に触ろうとするわけでもない。ただ、そこにいることを許すような、静かな距離感だった。

ヒマワリはぐんぐんと背を伸ばし、やがて老人の背丈をも超えるほどになった。花の重みで少し傾きながらも、それでも太陽の方角を追い続けていた。黒猫はそんなヒマワリの下で、来る日も来る日も昼寝を続けた。

夕立が来た日のことだった。急に空が暗くなり、大粒の雨が畑を叩き始めた。老人が慌てて軒下に避難する中、黒猫はヒマワリの葉の下に隠れていた。大きな葉が傘のように広がり、雨をしのぐには十分だった。

雨が上がった後、老人が畑に出てみると、黒猫はまだそこにいた。濡れた毛並みを丁寧に舐めながら、何事もなかったかのように過ごしている。ヒマワリもまた、雨に打たれてもなお、しっかりと空を見上げていた。

夏が終わりに近づく頃、ヒマワリの花は少しずつ首を垂れ始めた。種をたっぷりと蓄え、次の季節への準備をしているようだった。黒猫は相変わらずその根元で過ごしていたが、心なしか、以前より落ち着いた様子だった。

老人は、枯れ始めたヒマワリを見ながらつぶやいた。

「来年もまた、ここに咲くといいな」

その言葉が聞こえたのかどうかは分からない。ただ黒猫は、ゆっくりと目を開けて、老人の方を見た。それから、また静かに目を閉じた。

季節はめぐり、ヒマワリはやがて姿を消す。けれど、その種はまた土に還り、次の夏には新しい花を咲かせるだろう。そしてきっと、その根元には、また同じ黒猫が丸くなっているに違いない。

畑の隅で繰り返される、小さくてささやかな物語。それは誰に気づかれることもなく、今日もどこかで静かに続いている。


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