リビングの片隅に、少し座面の高いソファーがある。
飼い主が仕事から帰ってくると、いつもそこに座って一息つくのが日課だった。そのソファーの前で、じっと見上げている一匹の猫がいる。名前はもち。丸い顔と短い脚が特徴の、マンチカンという種類の猫だ。
もちは、そのソファーに登ろうとして、もう何度も失敗していた。
短い前脚を精一杯伸ばして、ぴょんと跳ねる。けれど座面までは届かず、爪が布地をかすめるだけで、ずるりと滑り落ちてしまう。それでも諦めずに、もう一度、また一度と挑戦する。その様子は健気で、見ているだけで胸が温かくなる。
「もち、また挑戦してるの?」
飼い主がそう声をかけると、もちは一瞬こちらを振り返り、また前脚に力を込める。今日こそはという気持ちが伝わってくるようだった。しかし結果は同じで、ふすっと小さな音を立てて床に着地する。悔しそうな顔で、ソファーをじっと見上げる姿がなんとも愛らしい。
マンチカンは脚が短い分、他の猫のように高い場所へ軽々と飛び乗ることが苦手だ。それでも、もちは工夫を忘れない。ある日、そばに置いてあったクッションを見つけると、それを踏み台代わりにして、少しだけ高い位置から跳んでみせた。惜しくもソファーには届かなかったが、その発想力に飼い主は思わず笑ってしまった。
何度目かの挑戦の末、ついにもちの前脚がソファーの座面にしっかりとかかった。後ろ脚でぐっと床を蹴り、丸い体を持ち上げる。そのままころんと座面に転がり込むと、もちは満足げに毛づくろいを始めた。
「やったね、もち」
飼い主が頭を撫でると、もちは目を細めて、まるで誇らしげな表情を見せた。短い脚では届かない高さも、諦めずに挑み続ければ、いつかは越えられる。もちの小さな挑戦は、そんなことを静かに教えてくれる気がした。
その夜、もちはソファーの上で丸くなり、穏やかな寝息を立てていた。窓の外はすっかり暗くなっていたが、部屋の中には温かな灯りと、小さな猫の存在が満ちていた。明日もまた、もちは何かに挑戦するのだろう。その姿を見守るのが、飼い主にとって何よりの楽しみだった。
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