2026年8月31日月曜日
黒猫と雨が好きな猫
商店街のはずれ、雨樋の下に小さな軒下がある。そこは黒猫のクロの縄張りだった。
雨の匂いがすると、クロは決まってそこに座り込み、灰色の空を見上げる。他の猫たちは雨を嫌って物置の奥へ隠れてしまうのに、クロだけは違った。雨粒がアスファルトを叩く音、水たまりに広がる波紋、濡れたコンクリートの匂い——そのすべてが、クロにとっては特別な音楽のようなものだった。
ある日、いつものように軒下で雨を眺めていると、隣に誰かが座った気配がした。振り向くと、真っ白な毛並みの猫が、同じように空を見上げていた。
「雨、好きなの?」
白猫が聞いた。クロは少し驚いた。今まで誰も、雨の日にここへやってくる猫はいなかったから。
「好きだよ。静かになるから」
クロが答えると、白猫はふっと笑うように目を細めた。
「わたしも。みんなは嫌がるけど、雨の日は世界がやさしくなる気がするんだ」
それから二匹は、言葉を交わさなくても、雨の日になると自然と同じ軒下に集まるようになった。並んで座り、水たまりに映る空を眺め、時々どちらかが小さくあくびをする。それだけの時間だったけれど、クロにとってはかけがえのないものになっていた。
晴れた日、白猫は別の道を歩いていく。どこに住んでいるのかも、名前も知らない。それでもクロは気にしなかった。また雨が降れば、きっとあの場所で会える。そう信じているから。
今日も空は少しずつ灰色に変わっていく。クロは軒下に向かって、ゆっくりと歩き出した。
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