2026年8月18日火曜日

メインクーンという猫

メインクーンという猫

雨上がりの午後だった。

軒下の水たまりに、まだ光の粒がいくつか浮かんでいる。その脇に、彼はゆっくりと腰を下ろした。名前はまだない。ただ、この家の人々は彼を「大きな子」と呼んでいた。

生まれたときから、彼は普通ではなかった。他の兄弟猫たちよりもひとまわり大きな体、耳の先からふさふさと伸びる飾り毛、そして胸元を覆う豊かなたてがみのような毛並み。まるで小さなライオンのようだと、母猫は目を細めてよく彼を見つめていた。

「メインクーン」――それが彼の種族の名前だと知ったのは、ずっと後のことだ。遠い海の向こうの国で生まれた血筋。厳しい冬を生き抜くための大きな体と、水を弾く豊かな毛。そんな遠い祖先の記憶が、なぜか彼の中にも静かに息づいているような気がした。

縁側に座る老人が、彼の背中をゆっくりと撫でる。骨太な体はずっしりと重く、その重みが老人の膝に伝わるたび、なぜか二人とも安心したように息を吐いた。

「お前は本当に大きくなったなあ」

老人がそう呟くと、彼は答えるように「ンー」と低く小さな声で鳴いた。メインクーンは鳴き声も控えめだ。犬のように吠えることもなく、ただ静かに、まるで人の言葉に相槌を打つように、小さく喉を鳴らす。

夕方になると、彼は決まって窓辺に移動する。大きな体を丸めて、沈んでいく太陽を眺めるのが日課だった。橙色の光が、彼の長い被毛を透かして金色に染める。その姿はどこか神々しく、通りかかる子どもたちが窓の外から指をさして「大きな猫がいる!」と騒ぐこともあった。

彼自身は、自分がどれほど大きいのか、どれほど毛がふさふさなのか、気にしたことはなかった。ただ、日向のぬくもりと、老人の膝の重さと、夕暮れの静けさが好きだった。それだけで、十分だった。

夜になると、彼はまた老人のそばに寄り添う。大きな体をぴったりとくっつけて眠る姿は、まるで温かい毛布のようだ。老人は時々目を覚まし、傍らで眠る大きな影に手を伸ばす。柔らかく、温かく、そして確かにそこにある存在。

「お前がいてくれてよかった」

そう呟く声は、いつも彼の眠りの中に溶けていった。

メインクーンという猫は、大きい。けれど、その大きさの分だけ、そばにいる者を包み込むような優しさを持っている。遠い祖先から受け継いだ逞しさと、今この家で育まれた穏やかさ。その両方を胸に抱えながら、彼は今日もまた、静かに夕焼けを見つめている。


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