2026年8月19日水曜日

金魚を見ているマンチカン

金魚を見ているマンチカン

縁側の日だまりに、丸い水鉢が置かれている。

中で揺れているのは、赤とオレンジが混じり合った三匹の金魚だ。水面が風にさざめくたび、光の粒がゆらゆらと底まで届いて、砂利の上に細かい模様を描いていた。

その水鉢の縁から、じっと中を覗き込んでいるものがいる。

短い脚で精一杯背伸びをした、一匹のマンチカンだった。名前はハル。生まれてまだ一年ほどの、脚の短さがどこか愛嬌になっている猫だ。

ハルはこの水鉢の存在に、つい先週気づいたばかりだった。縁側を通りかかったとき、水面に映る自分の顔と、その奥でゆらゆら動く赤い影に出くわし、それ以来すっかり心を奪われてしまっている。

「なんだ、あれは」

そう言いたげな顔で、ハルは前脚を鉢のふちにかけた。短い脚では、精一杯伸びをしてもようやく顎が届くくらいだ。それでも器用にバランスを取りながら、水の中を覗き込む。

金魚たちは、ハルの視線などまるで気にせず、悠々と泳ぎ続けていた。一匹が水草の陰に隠れたかと思うと、もう一匹がすいっと横切っていく。その動きを、ハルの瞳孔がきゅっと丸くなって追いかける。

尻尾の先が、こつん、こつんと縁側の板を叩いた。狩りの本能が疼いているのか、それとも単なる好奇心か。ハル自身にもよくわかっていないようだった。

そのとき、一番大きな金魚がゆっくりと水面近くまで浮かび上がってきた。ハルとの距離はほんの
数センチ。

思わずハルの前脚がぴくりと動く。だが、爪を立てることはしなかった。ただじっと、まばたきも忘れて見つめている。まるで、初めて出会う不思議な生き物に敬意を払うかのように。

金魚はぱくりと口を開けて、また水の中へ潜っていった。その拍子に小さな水しぶきが跳ねて、ハルの鼻先にひとしずく落ちる。

「ひゃっ」

ハルは驚いて一歩後ずさりし、それから何事もなかったかのように、また鉢のふちに前脚をかけ直した。懲りない性格らしい。
縁側には、ゆったりとした昼下がりの時間が流れている。庭からは風鈴の音がかすかに聞こえ、水鉢の水面はきらきらと光を反射し続けていた。

ハルはしばらくそうして金魚を眺めていたが、やがて満足したのか、ふすっと小さなあくびをひとつ。短い脚を折りたたむようにして、水鉢のそばにぺたりと座り込んだ。

金魚を追いかけるでもなく、ただそこにいる。それだけで、十分だった。

日が傾き始め、水鉢の中の赤い影が、いっそう鮮やかに揺らめいて見えた。ハルの丸い瞳にも、その赤が映り込んでいる。

きっと明日も、ハルはこの場所に来るだろう。短い脚で精一杯背伸びをしながら、飽きることなく金魚たちを見つめるために。


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