2026年8月29日土曜日

月とメインクーン

月とメインクーン

夜が更けると、リビングの窓辺はいつも特等席になる。

大きな体を丸めて、それでいて窮屈そうにはみ出しながら、そのメインクーンは窓際にどっしりと構えていた。ふさふさの尻尾が、まるで別の生き物のようにゆっくりと揺れている。

外には、まんまるの月が浮かんでいた。

「また月を見てるの?」

飼い主が声をかけても、彼は振り返らない。金色の瞳は、ガラス越しの夜空にじっと注がれたままだ。大きな耳がぴくりと動いて、声は届いているのだと分かる。それでも視線だけは、月から離れようとしなかった。

メインクーンという猫は、もともと寒い土地で生まれ育った猫種だという。厚い被毛も、大きな体も、長い尻尾も、すべては厳しい冬を生き抜くための知恵だったらしい。だからだろうか、彼が月を見つめる横顔には、どこか遠い場所を思い出しているような、そんな静けさがあった。

飼い主はそっと隣に腰を下ろし、同じ方向を眺めてみる。

夜空に浮かぶ月は、静かに、しかし確かな光を放っていた。彼の金色の瞳にも、小さな月が映り込んでいる。まるで彼自身の中に、もうひとつの月を飼っているかのように。

しばらくすると、彼は大きなあくびをひとつして、飼い主の膝にゆっくりと体を預けてきた。ずしりとした重み。温かい体温。ごろごろと喉を鳴らす音が、静かな部屋に響き始める。

窓の外では、月が変わらず輝き続けている。

きっと明日の夜も、彼は同じ場所で、同じように月を見上げるのだろう。その大きな体のどこかに、まだ見ぬ雪原の記憶を抱えたまま、今夜も静かに月を見つめている。


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