2026年8月17日月曜日

猫と遊ぶ犬

猫と遊ぶ犬

朝の光がまだやわらかい時間、庭の隅にある古い木の下で、一匹の犬がじっと何かを見つめていた。

名前はコタロウ。柴犬の血が少し混じった雑種で、体は大きくないが、耳だけはいつも自信満々に立っている。彼の視線の先には、隣の家から迷い込んできたらしい一匹の猫がいた。

猫は灰色の縞模様で、木の根元に座り込み、前足で顔を洗っていた。コタロウのことなど、まるで眼中にないという様子だった。

コタロウは尻尾をゆっくり振りながら、一歩、また一歩と近づいていく。猫はちらりと目を上げたが、逃げるでもなく、ただ小さくあくびをしただけだった。

「遊ぼうよ」

コタロウの心の声が聞こえてきそうなほど、その仕草は分かりやすかった。前足を地面につけて腰を高く上げ、いわゆる「プレイバウ」の姿勢を取る。これは犬が仲間に「遊びたい」と伝えるときの合図だ。

猫は少しの間、コタロウを観察していた。そして、ふいに立ち上がると、するりと木の幹を駆け上がった。コタロウは驚いたように後ずさりし、それから嬉しそうに木の周りをぐるぐると回り始めた。

しばらくすると、猫は枝の上から顔だけを出し、じっとコタロウを見下ろしていた。まるで「そっちがそんなに必死なら、少しだけ付き合ってあげようか」とでも言いたげな表情だった。

やがて猫はひらりと木から飛び降り、コタロウのすぐ横をすり抜けるように走り出した。コタロウは待ってましたとばかりに追いかける。もちろん本気で捕まえるつもりはない。二匹の間には、いつの間にか奇妙な信頼関係のようなものが生まれていた。

追いかけっこは庭を三周ほど続いた。猫が急に方向を変えると、コタロウも慌てて向きを変える。時々、猫は立ち止まって振り返り、コタロウが追いつくのを待つような素振りさえ見せた。

日が高くなる頃、二匹は木陰でひと休みすることにしたらしい。猫は少し距離を置いて座り、コタロウはその横にどさりと寝そべった。荒い息を整えながらも、コタロウの目はずっと猫の方を向いている。

猫はゆっくりと歩み寄ると、コタロウの鼻先にそっと自分の額を近づけた。ほんの一瞬の触れ合いだったが、それは確かに「今日は楽しかったよ」という合図のように見えた。

そして猫は塀の上に飛び乗り、いつものように気まぐれな足取りで去っていった。コタロウはしばらくその後ろ姿を見送り、それから満足そうに大きなあくびをして目を閉じた。

犬と猫。種族が違えば、言葉も通じない。それでも、庭に差し込む光の中で交わされたひとときの遊びは、二匹にとって確かな時間だったに違いない。

明日もまた、あの木の下で会えるだろうか。コタロウは夢の中で、きっとそんなことを考えているのだろう。


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