2026年8月6日木曜日

石の階段からこっちを見て何か言いたそうな黒猫

石の階段からこっちを見て何か言いたそうな黒猫

古い神社の参道だったのか、それとも住宅街の裏手にひっそりと続く小道だったのか。苔むした石段を上っていくと、その途中で一匹の黒猫と目が合った。

段差にちょこんと腰を下ろし、尻尾を体に巻きつけたその猫は、こちらが近づいても逃げようとしない。ただじっと、金色がかった瞳でこちらを見つめてくる。まるで「そこから先は、ちょっと待って」とでも言いたげに。

黒猫というと、どこか神秘的で、時に不吉な存在として語られることもある。けれど実際に出会う黒猫は、たいてい人懐っこくて、どこか達観したような雰囲気をまとっていることが多い気がする。日の光を吸い込むような漆黒の毛並みは、石段の灰色との対比でいっそう際立って見えた。

しばらくその場に立ち止まって見つめ返していると、猫はふと視線を外し、ふわあ、と小さなあくびをした。緊張していたこちらの肩の力が、思わず抜ける瞬間だった。何かを訴えるような表情をしていたのは、こちらの思い込みだったのかもしれない。ただ日向ぼっこの途中で、通りすがりの人間が気になっただけなのかもしれない。

それでも、階段の上から見下ろすように座るその姿は、どこか「番人」のようでもあった。この先に何があるのか、そこを通っていいものかどうか、値踏みされているような、そんな不思議な緊張感。石段という舞台装置が、猫の存在をより印象的なものにしていたのだろう。

結局、黒猫は数分後にすっと立ち上がると、階段の脇の茂みへと姿を消していった。追いかけることはせず、そのまま石段を上りきる。振り返っても、もう猫の姿はどこにもなかった。

こういう、言葉にならない一瞬の出会いというのは、写真に撮っても伝えきれない何かがある。あの時の空気の重さや、猫の視線の強さ、石段のひんやりとした感触——そうしたものは、実際にその場に立たなければわからないのかもしれない。

もしどこかで、階段の途中でこちらをじっと見つめる黒猫に出会ったら、少し立ち止まってみてほしい。何を言いたいのかは、たぶん猫にしかわからない。でも、その視線の先には、こちらが忘れかけていた何かがあるような、そんな気がしてならない。


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