十月の半ば、町はずれの小さな雑木林は、夏の名残の熱をすっかり手放していた。
葉のあいだから落ちてくる光は、八月の頃のようにまぶしくはない。薄い絹をくぐったみたいに柔らかくて、地面にまだらの模様を描いている。そのまだらの上を、一匹の猫がゆっくり歩いていた。
マンチカンのマルは、脚が短い。短いけれど、歩みに迷いはなかった。まるい背中を少し揺らしながら、落ち葉を踏む。かさ、かさ、と乾いた音が、静かな林にちいさく響く。
木陰のいちばん奥に、黄色い花が群れて咲いていた。
キバナアキギリ。秋の入り口に、やさしい黄色の花を段々に重ねて、ひっそりと咲く花だ。ハート形の葉のうえに、唇のような形をした花がいくつも並んでいる。派手ではない。それなのに、木陰の薄暗がりのなかでは、そこだけ小さな灯りがともっているように見えた。
マルは花の前でぴたりと止まった。
鼻先をそっと近づける。ひげが花にふれて、黄色い花がふるりと揺れた。ほのかな香りがしたのかもしれない。マルは目を細めて、何かを確かめるように、もう一度ゆっくり息を吸った。
そのとき、林のすき間から風が通りぬけた。
木々の葉が、さわさわと鳴る。花々がいっせいにうなずくように揺れ、まだらの光もいっしょに揺れた。マルの耳が、風のほうへ小さく動く。けれど逃げもしないし、慌てもしない。ただ、ここにいる、というふうに座りなおして、前足をそろえた。
遠くで、鳥が一声だけ鳴いた。
それきり、林はまた静かになる。
木もれ日は、少しずつ位置を変えていく。さっきまで花の上にあった光は、いつのまにかマルの背中へ移っていた。ふわりとあたたかい。マルはまぶたを重たそうに下ろして、ごろりと横になり、お腹をゆっくり上下させた。
黄色い花のそばで丸くなる猫。
ただそれだけの景色なのに、見ているとふしぎに胸の奥がほどけていく。急いでいた足も、考えごとでいっぱいだった頭も、この木陰では、すこしだけ休んでいいような気がしてくる。
秋は、大きな声で何かを主張する季節ではないのだと思う。
燃えるような紅葉も美しいけれど、ひっそり咲く小さな花や、木もれ日の揺れ方や、猫の寝息のような、気づかなければ通りすぎてしまうものたちが、いちばん深いところまで届くことがある。
しばらくして、マルはぱちりと目を開けた。
のそのそと起き上がり、からだをぐうっと伸ばす。短い脚をせいいっぱい突っぱって、あくびをひとつ。それから、キバナアキギリにちょん、と鼻先でごあいさつをして、また歩きだした。
かさ、かさ、と落ち葉の音が遠ざかっていく。
あとには、風に揺れる黄色い花と、やわらかな木もれ日だけが残った。
木陰は変わらずそこにある。花はまた明日も、静かに咲いているだろう。
もしあなたが、少し疲れた日の帰り道に、ふと足を止められる木陰を見つけたなら。そこにはきっと、小さな花と、小さな猫が、あなたを待っている。
秋の木陰は、今日もやさしい。
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