2026年9月3日木曜日

雨とメイクーンという猫

雨とメイクーンという猫

雨の匂いがした日のことを、よく覚えている。

窓の外では朝から霧のような雨が降っていて、灰色の空が街をそっと包んでいた。そんな日、私の膝の上には、いつも通り大きな体を丸めてメイクーンが眠っていた。

メイクーンは、我が家に来たときからずっと大きな猫だった。ふさふさとした尻尾と、少し垂れた耳の先が特徴的で、名前の由来も「メインクーン」という種類からきているらしいのだが、私はいつからか「メイクーン」と呼ぶようになっていた。

雨の日のメイクーンは、いつもより機嫌がいいように見えた。窓ガラスに水滴が伝う様子を、緑色の瞳でじっと追いかけている。まるでその一粒一粒に、何か物語でも見つけているかのようだった。

「雨、好きなの?」

そう聞いても、もちろん答えは返ってこない。ただ、ゆっくりと瞬きをして、また窓の外に視線を戻すだけだった。それでも私には、なんとなく彼が「うん」と言っているように感じられた。

しばらくすると、雨音がリズムを変えた。強くなったり、弱くなったり。その音に合わせるように、メイクーンの喉からゴロゴロという音が聞こえてきた。大きな体に見合った、低く優しい響きだった。

私はその音を聞きながら、温かい紅茶を淹れた。湯気が立ちのぼる中、メイクーンは私の膝からソファーの隅へと移動し、丸くなって眠り始めた。雨の音と、猫の寝息と、紅茶の香り。それだけで、この部屋は十分に満たされているような気がした。

夕方になっても雨はやまなかった。むしろ少しずつ強さを増していくようだった。けれどメイクーンは相変わらず落ち着いた様子で、時折片目だけ開けて私の様子をうかがっては、また目を閉じる。

「今日はどこにも行かなくていいね」

私がそう呟くと、メイクーンは大きなあくびをひとつして、また眠りについた。その姿を見ていると、雨の日というのは、こうして誰かと静かに過ごすためにあるのかもしれない、と思えてくる。

窓の外の雨は、いつまでも降り続いていた。けれど部屋の中には、猫の温もりと、変わらない穏やかな時間が流れていた。それだけで、じゅうぶんだった。


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