2026年9月12日土曜日

公園のベンチに座る黒猫

公園のベンチに座る黒猫

 夕方の光が、公園の砂利道を橙色に染めていた。子どもたちの声も途絶え、ブランコの鎖がかすかに揺れる音だけが響いている。そんな静かな時間に、一匹の黒猫がベンチの上にちょこんと座っていた。

 毛並みは艶やかで、まるで夜そのものを纏っているようだった。前足を揃え、背筋を伸ばし、まるで誰かを待っているかのように、公園の入り口の方をじっと見つめている。

 通りかかった老人が、思わず足を止めた。
「おや、こんなところで。誰かの飼い猫かい?」

 黒猫は答える代わりに、ゆっくりと瞬きをした。それは肯定でも否定でもない、ただ「今はここにいる」という意思表示のようだった。老人は小さく笑い、隣にそっと腰を下ろした。二人分――いや、一人と一匹分の重みでベンチが軋んだ。

「わしも昔は、よくこうしてここに座ったもんだ」

 老人はぽつりぽつりと、昔のことを話し始めた。若い頃に働いていた工場のこと、今はもう会えなくなった友人のこと、そして今日買い物帰りに見た夕焼けのこと。黒猫は相槌を打つでもなく、ただじっと前を見つめたまま、耳だけを時折そちらに向けていた。

 話に飽きたのか、それとも満足したのか、老人はやがて立ち上がった。
「また会えるかな」

 黒猫は返事の代わりに、尻尾をゆらりと一振りした。

 老人が去ったあとも、黒猫はしばらくそこに座り続けていた。空はだんだんと群青色に変わり、公園の街灯がぽつりぽつりと灯り始める。誰もいなくなったベンチの上で、黒猫はふわりと丸くなり、目を閉じた。

 その姿はまるで、この公園そのものの番人のようだった。昼間の賑やかさも、夜の静けさも、すべてを知っている――そんな貫禄すら漂わせながら、黒猫は今日もそこにいる。

 もし公園でこの黒猫に出会うことがあったなら、少しだけ隣に座ってみてほしい。何も語らずとも、不思議と心が落ち着くはずだから。

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