2026年9月12日土曜日
ぶどうとマンチカン
秋の夕方、窓辺には橙色の光が差し込んでいた。テーブルの上には、洗ったばかりのぶどうがひと房、水滴をまとってつやつやと輝いている。
その香りに気づいたのは、短い脚のマンチカンだった。名前はもも。丸い顔をひょいと持ち上げ、鼻をひくつかせながら、椅子をよじ登ろうとする。しかし脚の短さが災いして、前脚だけが座面にかかり、後ろ脚は宙ぶらりん。ぶらんと揺れる尻尾が、まるで助けを求めているようだった。
「こら、ぶどうは猫にはあげられないんだよ」
飼い主の声にも、ももは気にする様子はない。むしろ興味は増すばかりで、じっとテーブルの上のぶどうを見つめている。丸くて艶やかなその粒は、ももにとってはボールのように見えているのかもしれない。転がしたら、きっと面白いだろうな──そんな顔をしている。
何度目かの挑戦の末、ようやく前脚二本でテーブルの端に届いた。得意げに鼻を鳴らし、ぐっと体を持ち上げようとした瞬間、房から一粒、ぽとりと転がり落ちた。
ぶどうは床の上をころころと転がっていく。ももはすぐさま椅子から飛び降り、短い脚を目一杯使って追いかけた。パタパタという足音が部屋に響く。粒は棚の下に入り込み、ももはその前で四つん這いになって、隙間をのぞき込んだ。
届かない。悔しそうに片手を伸ばすが、あと少しのところで指が空を切る。
「しょうがないなあ」
飼い主が笑いながら箒を持ってきて、そっと粒を掻き出してやった。ももはそれを両手で挟み込み、まるで宝物を見つけたかのように、くんくんと匂いを嗅いだ。もちろん、それは猫にあげるものではないので、すぐに取り上げられてしまったのだけれど。
不満げにひと鳴きしたあと、ももはまた椅子によじ登ろうとする。夕暮れの光の中、短い脚でぴょんと跳ねるその姿は、どこか愛おしく、見ている者の頬をゆるめずにはいられなかった。
その夜、ぶどうはひと房丸ごと冷蔵庫の奥へとしまわれ、ももは丸くなってソファの上で夢を見ていた。きっと夢の中でも、あの丸い粒を追いかけているのだろう。
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