2026年9月13日日曜日
公園とマンチカン
公園の隅、桜の木の下にひとつだけ小さなベンチがあった。
そこに、白と茶色のまだら模様をしたマンチカンの「もも」が、短い足をちょこんと投げ出して座っていた。低い視点から見上げる公園は、もものような猫にとってはまるで別世界だった。芝生は緑の海のように広がり、砂場は誰かが作った小さな山脈のようで、遠くのブランコはゆっくりと風に揺れる巨大な振り子だった。
もものお気に入りは、この時間だった。朝の光がまだ柔らかく、犬の散歩をする人もまばらで、公園全体が眠りから覚めたばかりのような静けさに包まれている。もものマンチカン特有の胴長短足の体は、歩くたびにぽてぽてと弾むように揺れる。それがまた、通りかかる人々の頬を緩ませる理由でもあった。
「あ、また来てる」
顔なじみの老人が、ベンチの脇に腰を下ろしながら呟いた。もものほうも慣れたもので、逃げるでもなく、ただじっと老人を見上げる。丸い瞳の奥には、警戒よりも好奇心のほうがずっと多く詰まっているようだった。
もものしっぽが、ゆらりと揺れる。砂場の方から聞こえる子どもたちの声、遠くの木々を渡る風の音、どこかから漂ってくるパンの匂い。すべてが混ざり合って、この公園だけの音楽を奏でていた。
短い足で懸命に地面を蹴り、もものは砂場のほうへと歩き出す。途中、タンポポの綿毛が目の前をふわりと横切った。もものはそれを前足でそっと払おうとしたが、綿毛はするりと躱すように宙へ舞い上がっていく。まるでもものをからかうように。
「もう、意地悪なんだから」
そう言いたげに、もものは小さく鼻を鳴らした。それでも機嫌を損ねる様子はなく、また新しい探検先を求めて、短い足を忙しなく動かしながら公園の奥へと進んでいった。
太陽が少しずつ高くなり、公園に人が増え始める頃、もものはいつものベンチの下に戻り、丸くなって目を閉じた。今日も公園は、もものにとって世界のすべてだった。そしてその世界は、今日もちゃんと優しかった。
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