2026年9月14日月曜日
木の上にいるメインクーン
昼下がりの庭に、大きなクスノキが一本立っている。
その太い枝の上に、モカという名のメインクーンが座っていた。まるで木の一部のように、大きな体を枝に沿わせて、ふさふさの尾を垂らしている。遠くから見ると、灰色と白の毛並みが木漏れ日と混じり合って、猫だとわかるまで少し時間がかかるほどだった。
モカがこの木に登ったのは、ほんの小さな出来事がきっかけだった。庭に迷い込んできた一匹の蝶を追いかけていたら、気づいたときには幹の半分ほどの高さまで来ていたのだ。蝶はもう見えなくなっていたが、モカは登るのをやめなかった。もう少し、もう少しと爪をかけているうちに、いつのまにか一番太い枝の上にたどり着いていた。
そこから見える景色は、いつも庭で見ているものとは違っていた。垣根の向こうに続く道、隣の家の屋根、遠くにぽつんと見える電柱。風が吹くと葉がさらさらと音を立て、モカの髭がかすかに揺れる。高いところは、思っていたよりも静かだった。
しばらくすると、家の中から飼い主の声が聞こえてきた。「モカ、どこにいるの?」
モカは声のする方に耳を向けたが、動こうとはしなかった。降りる方法がわからなかったわけではない。ただ、この枝の上の時間を、もう少しだけ味わっていたかったのだ。木の上から見る自分の家は、いつもより少し誇らしげに見えた。
やがて庭に出てきた飼い主が、木の上のモカを見つけて笑い声を上げた。「そんなところにいたのね」
その声を聞いて、モカはようやくゆっくりと体を起こし、爪を幹に食い込ませながら一歩ずつ降り始めた。地面に降りたつと、モカは何事もなかったように飼い主の足に頭をこすりつけた。
木の上から見た景色のことは、モカだけの小さな秘密になった。
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