2026年9月14日月曜日
野良猫の会議
夕方、空がオレンジ色から紫色へと変わりかけるころ、住宅街の隅にある小さな空き地に、一匹また一匹と猫たちが集まってくる。
最初に姿を見せたのは、片耳が少し欠けた茶トラだった。彼はいつも一番早くやってきて、コンクリートブロックの上に陣取る。まるでそこが自分の指定席だと言わんばかりに、堂々とした顔で座っている。
続いてやってきたのは、白黒のハチワレ猫。まだ若く、動きに落ち着きがない。茶トラの隣に座ろうとして、間合いを間違え、もう少し離れた場所に座り直した。
「今日も遅いな」
そう言いたげな顔で茶トラが空を見上げたところに、黒猫がゆっくりと姿を現した。長い尾をゆらゆらと揺らしながら、まるで議長の登場のような足取りで空き地の中央へと進む。
これが、毎晩この場所で開かれている「野良猫の会議」だ。誰が呼びかけたわけでもなく、誰が決めたわけでもない。いつからか、猫たちは日が暮れるとこの空き地に集まるようになった。
会議といっても、特に何かを話し合っているわけではない。猫たちはただ、それぞれの距離を保ったまま座り、たまに目を合わせ、たまに欠伸をする。時々、一匹が動くと、それに合わせて他の猫たちも少しだけ位置を変える。そんな、静かで緩やかな時間が流れていく。
キジトラの子猫が一匹、遠くからこの様子をじっと見つめている。まだこの会議に加わる勇気が出ないのか、電柱の陰から顔だけを出して、大人猫たちの様子をうかがっている。
黒猫がふと視線を子猫の方へ向けた。子猫はびくっと体を震わせたが、逃げることはしなかった。しばらく見つめ合ったあと、黒猫はまた前を向き、何事もなかったように座り直す。それだけのことだったが、子猫は少しだけ、空き地に近づいた。
空にはいつの間にか一番星が浮かんでいる。風が少し冷たくなってきた頃、茶トラが最初に腰を上げた。特に合図があったわけではないのに、それを見た他の猫たちも、ひとりずつ、ふたりずつと立ち上がり、それぞれの帰る場所へと歩き出す。
会議に議題はなかった。結論もなかった。ただ、同じ時間に同じ場所で、同じ空気を分け合っただけだった。それでも、猫たちにとってはそれが、一日の終わりに必要な何かだったのかもしれない。
明日の夕方も、きっとこの空き地には猫たちが集まってくるのだろう。そしてまた、誰にも聞かれることのない、静かな会議が始まる。
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