2026年9月18日金曜日
栗とマンチカンという猫
秋の日差しが、縁側にやわらかく降り注いでいた。
庭の隅にある栗の木からは、今年もぽつぽつと実が落ちはじめている。いがに包まれたその実は、まるで小さな宝物のように、朝露に濡れて光っていた。
その縁側に、一匹のマンチカンがちょこんと座っていた。短い脚を体の下にしまい込み、丸くなった姿はまるで座布団のようだ。名前はハチ。丸い顔に、いつも少しだけ不満そうな目をしているのが、この子の特徴だった。
ハチは庭に落ちたいがぐりを、じっと見つめていた。
「……なんだ、あれは」
もちろん言葉にはならないけれど、その視線は明らかにそう語っていた。とげとげとした見た目に警戒しているのか、それとも単純に気になっているだけなのか。しばらく動かずに観察を続けたあと、ハチはゆっくりと縁側から飛び降りた。
短い脚で、よちよちと庭を横切っていく。その後ろ姿は、いつ見ても少し滑稽で、それでいて愛らしい。
いがぐりのそばまで来ると、ハチは片方の前足でそっと触れてみた。
「……っ!」
ちくり、とした感触に驚いたのか、飛び跳ねるようにして後ずさる。尻尾がぶわっと膨らみ、目を丸くしてこちらを振り返った様子は、まるで「聞いてないよ、こんなの」とでも言いたげだった。
それでも好奇心には勝てないのか、ハチは今度は少し離れた場所から、鼻をひくひくとさせて匂いを嗅ぎはじめる。栗の甘い香りが、風に乗って漂っていた。
しばらくすると、はらり、と一枚の葉が落ちてきて、ハチの頭にちょこんと乗った。
「にゃ?」
突然のことに驚いたのか、その場でぴょんと跳ねる。葉はすぐに地面へと落ちていったけれど、ハチはしばらくその場に立ち尽くし、何が起きたのか理解できていない様子だった。
やがて、飽きたのか満足したのか、ハチはまた縁側へと戻ってきた。短い脚を懸命に使って登り、日向のあたたかい場所にごろりと横になる。
庭では、栗がまたひとつ、静かに実を落とした。
秋の空気は澄んでいて、どこか甘い香りがする。ハチはその匂いに包まれながら、ゆっくりと目を閉じた。
いがぐりに驚いたことも、葉っぱに驚いたことも、もうすっかり忘れてしまったように、穏やかな寝息を立てはじめる。
縁側に差し込む秋の陽と、小さな栗の実と、丸くなったマンチカン。
それだけで、この庭には十分すぎるほどの物語があった。
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