2026年9月17日木曜日

カワラナデシコとマンチカンという猫

カワラナデシコとマンチカンという猫

秋の気配がまだ遠くにあるような、夏の名残を感じる午後だった。河原に続く土手には、淡いピンク色の花が風に揺れている。カワラナデシコだ。細く裂けた花びらが、まるでレースのように繊細な模様を描いていた。

その土手の草の間から、小さな顔がひょこりと覗いた。マンチカンだった。短い足で草をかき分けながら、ゆっくりとカワラナデシコの群れに近づいていく。

「にゃあ」

まるで挨拶をするように一声鳴いて、マンチカンは花のそばにぺたりと座り込んだ。丸い瞳が花びらの揺れを追いかける。風が吹くたびに、花はふわりと傾き、また戻る。その動きが気になるのか、マンチカンは前足をそっと伸ばしてみたが、届く距離ではなかった。少し困ったように首をかしげる姿が、なんとも愛らしい。

河原には、ゆったりとした川の流れる音が響いていた。遠くでは鳥がさえずり、時折とんぼが水面をかすめて飛んでいく。そんな穏やかな景色の中、マンチカンはカワラナデシコの香りを確かめるように鼻をひくつかせた。花の匂いというより、草の匂いと混ざった夏の終わりの匂いだったのかもしれない。それでもマンチカンは満足そうに、その場にごろりと横になった。

短い足を投げ出し、お腹を見せるようにして寝転がる姿は、まるで自分だけの特別な場所を見つけたかのようだった。カワラナデシコが風に揺れるたび、花びらの影がマンチカンの背中にちらちらと落ちる。その光の模様を、まるで数えているかのように、マンチカンはじっと見つめていた。

しばらくすると、マンチカンはむくりと起き上がり、今度は花の周りをぐるりと一周してみせた。短い足でとことこと歩く様子は、まるで花を見張っているようにも見える。誰に頼まれたわけでもないのに、律儀に一周し終えると、また元の場所に戻ってきて座り直した。

日が少しずつ傾き始め、河原の色が柔らかな橙色に染まっていく。カワラナデシコの淡いピンクも、夕方の光を受けてどこか温かみを増していた。マンチカンはその光を浴びながら、目を細めてじっと動かなくなった。眠っているのか、それともただ景色を眺めているだけなのか、傍から見ている者にはわからない。

やがて風が少し強くなり、カワラナデシコの花がいっせいに揺れた。その音に反応してか、マンチカンはぴくりと耳を動かし、ゆっくりと立ち上がった。名残惜しそうに花のほうを一度だけ振り返り、それから短い足で草の中へと戻っていく。後ろ姿はあっという間に草陰に消えていったが、その場にはまだ、マンチカンが座っていた跡がぼんやりと残っていた。

河原には、変わらずカワラナデシコが風に揺れている。誰かがそこで一緒に時間を過ごしていたことなど知らないかのように、静かに、そして涼やかに。けれど確かに、あの小さな猫と花との間には、短くも穏やかなひとときが流れていたのだった。


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