2026年9月15日火曜日
3匹のマンチカン
古い商店街の外れに、小さな古本屋がある。看板の文字はほとんど消えていて、今では誰もその店の名前を正確には言えない。店主のおばあさんは、毎朝七時に木製の扉を開け、埃をかぶった本棚の隙間から差し込む光を眺めるのが日課だった。
その古本屋には、三匹のマンチカンが住んでいる。
一匹目は茶トラの「文太(ぶんた)」。名前の通り、いつも文学全集のコーナーに寝そべっている。短い脚のせいで高い棚には上れないが、そのぶん低い場所の本には誰よりも詳しい。誰かが探している本の近くをうろうろするので、常連客はいつしか「文太に聞けば見つかる」と言うようになった。
二匹目は白黒の「詩織(しおり)」。名前は栞(しおり)と同じ音で、店主が本にちなんで付けたそうだ。詩織は本の間に挟まった古い葉書や写真を見つけるのが得意で、見つけた紙切れをそっと前足で押して、人間に「ここにあるよ」と教えてくれる。
三匹目はグレーの「頁太(けいた)」。一番の甘えん坊で、レジ横の座布団の上で丸くなっているのがほとんどの仕事だ。だが、雨の日だけは決まって窓際に移動し、外を眺めながら小さく喉を鳴らす。店主はそれを見て、「頁太が窓際にいる日は、いい客が来る」と言っていた。
ある秋の午後、若い男がふらりと店に入ってきた。探している本のタイトルもうろ覚えで、著者の名前も曖昧なままだった。店主が困った顔をしていると、文太が短い脚をせっせと動かして、隅の棚へと歩いていく。男がついていくと、そこには探していた本がひっそりと差し込まれていた。
「よく見つけましたね」と男が驚いていると、詩織が本の間から一枚の古い葉書を落とした。裏には見覚えのある字で、短い言葉が綴られていた。それは、男が昔、この店で買った本に自分で書き込んだメモだった。
窓際では、頁太が静かに外の雨を見つめていた。
男は本を買い、葉書をポケットにしまい、静かに店を出ていった。扉が閉まる音を聞いて、三匹のマンチカンはそれぞれの場所へ戻っていく。文太は文学全集の前へ、詩織は棚の隙間へ、頁太は座布団の上へ。
古本屋の時間は、こうして今日も静かに流れていく。誰かが本を探しに来るたびに、三匹の短い脚が、本と人とをそっとつなぎ続けているのだ。
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