2026年9月17日木曜日
星が好きなメインクーンという猫
夜がふけると、レオはいつも窓辺に座る。
大きな体を丸めて、ガラスに額をくっつけるようにして、じっと空を見上げる。メインクーンという猫は、もともと体が大きく、毛もふさふさとしているけれど、レオはその中でも一段と大きく、まるで小さな獅子のようだった。名前の由来も、そこから来ている。
飼い主の女性――佐和子は、レオがこうして星を見つめる姿を、いつも少し不思議な気持ちで眺めていた。猫が星に興味を持つなんて、聞いたことがない。けれどレオは、部屋の明かりを消すと決まって窓辺に移動し、瞳をまんまるに開いて、夜空をずっと見つめているのだった。
「レオ、そんなに見て、何かあるの?」
佐和子が声をかけても、レオは振り返らない。尾の先だけがゆっくりと揺れて、返事のかわりのようだった。
その日は、いつもよりも空が澄んでいた。街の明かりが少ない、田舎の一軒家。夏の終わりの夜風が、少し開けた窓から入ってくる。虫の声が遠くで響いている。
佐和子はふと思い立って、窓の隣に椅子を持ってきて座った。レオと同じ方向を見上げてみる。
星が、いくつも、いくつも、輝いていた。
「本当に、綺麗ね」
そう呟くと、レオがようやく佐和子の方を向いた。金色の瞳が、月の光を受けてわずかに光る。それから、また空へと視線を戻した。まるで「わかっているなら、もう黙って見ていればいい」と言われたような気がして、佐和子は思わず笑ってしまった。
レオがこの家に来たのは、三年前の冬だった。ペットショップの隅で、他の子猫たちが元気に遊び回る中、レオだけがガラス張りの天井を見上げていたのを覚えている。当時はまだ小さな子猫で、今のような大きな体ではなかったけれど、その眼差しだけは、もう今と同じだった。
「この子、なんだか変わってるね」
店員はそう言って笑っていたが、佐和子はその眼差しに惹かれて、レオを家族にすることを決めた。
それから三年。レオは佐和子が仕事から帰ってくると、必ず玄関まで迎えに来る。ご飯の時間になれば、大きな声で鳴いて催促する。普段はごく普通の、甘えん坊の猫だ。けれど、夜になり、部屋が静かになると、レオはひとりで窓辺に向かい、誰にも邪魔されない時間を過ごす。
佐和子はその時間を、そっと見守ることにしていた。何を思っているのかはわからない。けれど、レオにとって、星を見上げる時間は、きっと特別なものなのだろうと感じていた。
風が少し強くなり、庭の木々がさらさらと音を立てた。佐和子は膝の上に置いた毛布を、レオの方にも少しかけてやった。レオは嫌がる様子もなく、むしろ心地よさそうに目を細めた。
「今日は流れ星、見られるかもしれないって、天気予報で言ってたよ」
佐和子がそう言うと、まるで理解したかのように、レオの尾がぴたりと止まった。二匹――いや、一人と一匹は、しばらく黄色い月と星々を見つめ続けた。
そのとき、空の端で、小さな光がひとつ、すっと流れた。
「あ、見た?」
佐和子が声をあげたときには、もう光は消えていた。けれどレオの瞳には、まだその軌跡が映っているように見えた。ひげがぴくりと動き、それから満足したように、大きなあくびをひとつした。
「なんだ、あくびなんだ」
佐和子は苦笑いしながら、レオの背中をゆっくりと撫でた。レオはごろごろと喉を鳴らし、ようやく佐和子の膝に頭を乗せてきた。いつもの、甘えん坊の顔だった。
けれど、その目はまだ、少しだけ窓の外を気にしているようだった。
夜はまだ長い。星はまだ、たくさん残っている。
佐和子はレオの頭を撫でながら、ふと思った。もしかしたら、レオは星のどこかに、遠い記憶をつなぐものを見ているのかもしれない。あるいは、ただ単純に、光るものが好きなだけかもしれない。理由はわからなくてもいい。ただ、この静かな夜に、レオと一緒に星を見上げる時間があることが、佐和子にとってはとても大切なものだった。
やがてレオは、佐和子の膝の上でうとうとと眠り始めた。大きな体が、ゆっくりと上下する。窓の外では、星々が変わらず輝き続けていた。
佐和子はそっと立ち上がり、レオを起こさないようにベッドまで運んだ。柔らかい布団の上に横たえると、レオは小さく鳴いて、また眠りにおちていった。
窓の外の星は、今夜もずっと輝いている。
そして、明日の夜も、レオはまた窓辺に座り、星を見上げるのだろう。それはきっと、彼にとっての、静かで大切な時間なのだ。
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