2026年9月18日金曜日
野良猫たちの草原
町はずれの土手を越えると、そこにはぽっかりと空いたような草原が広がっていた。誰が刈っているのかもわからないまま、いつも柔らかく整えられたその草地は、いつしか野良猫たちの憩いの場になっていた。
夕方になると、どこからともなく猫たちが集まってくる。茶トラ、キジトラ、真っ黒な子、片耳が欠けた古株――みんな決まった場所に座り、風にそよぐ草の匂いを嗅ぎながら、しばらくじっとしている。誰に教わったわけでもないのに、その時間だけは争うことも、威嚇し合うこともない。
一匹の白黒猫が、群れの少し離れたところに腰を下ろした。この草原に来るようになったのは、ほんの数ヶ月前のことだ。以前は隣町の商店街の裏で暮らしていたが、工事が始まって居場所を失い、あてもなく歩き続けた末にたどり着いたのがここだった。最初は誰にも近づけず、遠くから群れを眺めるだけの日々が続いた。
けれど、ある夕暮れ、年老いた灰色の猫がゆっくりと歩み寄ってきて、隣にどさりと座った。何も言わず、ただ並んで夕日を見ているだけ。それだけのことが、白黒猫の強張った心をほどいていった。
以来、白黒猫は毎日この草原に通うようになった。誰かと言葉を交わすわけではない。ただ、同じ風を浴び、同じ夕焼けを見て、同じ虫の声を聞く。それだけで十分だった。
草原にはルールなどない。腹が空けば思い思いに獲物を探しに行き、眠くなればそのまま草の上で丸くなる。子猫が生まれれば、血のつながりのない猫までもがそっと寄り添い、暖を分け合う。強い者も弱い者もなく、ただ「今日をやり過ごした命」として、みな同じ地平に立っている。
夜が更けると、草原は月明かりに包まれる。虫の音に紛れて、どこかで小さな鳴き声が響く。それに応えるように、あちこちからくぐもった声が返ってくる。まるで、今日一日を生き延びたことを互いに確かめ合っているかのようだった。
白黒猫は、草の間に顔をうずめ、目を閉じる。帰る家はない。決まった飼い主もいない。それでも、この草原には確かに居場所があった。
明日もまた、風がこの草を揺らすだろう。そしてまた、どこからともなく猫たちが集まってくるだろう。名前も、過去も知らないまま、ただ隣に座ることを許し合う場所――それが、野良猫たちの草原だった。
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