2026年9月16日水曜日
神社に集まっている野良猫達
古い神社の鳥居をくぐると、境内はいつも静かだった。参拝客の足音が途絶える夕暮れどき、その静寂を破るように、あちらこちらから小さな足音が集まってくる。
一番最初に姿を見せるのは、いつも茶トラの老猫だった。彼は境内の隅にある手水舎の陰から、ゆっくりと歩み出てくる。長い尾を揺らしながら石畳を歩く姿は、まるでこの神社の見張り番のようだった。
「今日も静かな一日だったな」
そう言いたげな顔で、茶トラは拝殿の前に腰を下ろす。すると、社務所の裏手から白黒のまだら猫が姿を現した。彼女はいつも遅れてやってくるが、誰よりも境内の隅々を知っている。賽銭箱の下に隠れた木の実や、灯籠の陰にできる暖かい日だまりの場所まで、すべて把握しているのだ。
「今日は誰か来た?」
まだら猫が茶トラに尋ねるように鳴くと、茶トラは軽く目を細めるだけで答えた。それが二匹の間の、いつものやり取りだった。
やがて夕焼けが空を染め始めると、境内の猫たちが次々に集まってくる。狐の像の後ろから顔を出す黒猫、絵馬の掛かった木の下でくつろぐキジトラ、鈴の音に耳を澄ませている小さな子猫。誰が呼びかけたわけでもないのに、まるで約束していたかのように、猫たちは決まった時間に決まった場所へ集まってくるのだった。
この神社に住み着いている猫たちには、それぞれの役割があるようだった。茶トラの老猫は境内の平和を守る長老のような存在で、まだら猫は餌をくれる氏子さんたちの顔を覚えている案内係。子猫たちはまだ何も知らないが、大人猫たちの仕草を見て少しずつ、この場所での過ごし方を学んでいく。
参道の脇に植えられた大きな楠の木が、風に葉を揺らす。その音に反応して、一匹の猫がすっと顔を上げた。人間の参拝客が一人、静かに石段を上ってくる足音が聞こえたからだ。猫たちは慌てることなく、それぞれの居場所からその人影を見つめる。警戒するでもなく、媚びるでもなく、ただそこにいる。それが、この神社の猫たちの流儀だった。
参拝客が賽銭を投げ、鈴を鳴らし、静かに手を合わせる。その一連の動作を、猫たちはまるで見慣れた儀式のように眺めていた。人が頭を下げている間、茶トラの老猫はふわりと欠伸をして、また元の場所へ寝転がる。
やがて日が完全に沈み、境内に灯籠の明かりがぽつぽつと灯り始める頃、猫たちは思い思いの場所へ散っていく。今日という一日が終わり、また明日、同じ時間に同じ場所へ集まってくることを、誰もが知っているかのように。
神社の静けさの中で、猫たちは今日も静かに、この場所の守り人であり続けている。
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