2026年9月17日木曜日

夏の終わりの海を見る黒猫の後ろ姿

夏の終わりの海を見る黒猫の後ろ姿

防波堤の先端に、一匹の黒猫が座っていた。

夕方の風はもう、真夏のそれとは違う匂いを含んでいる。潮の香りに、どこか涼しさが混ざり込んでいるのだ。黒猫はそれに気づいているのかいないのか、ただじっと水平線の方を見つめていた。

背中の毛が、風にそよいでいる。黒い毛並みは夕日を受けて、ところどころ赤銅色に染まっていた。誰かが呼んでも振り返らないだろう。今この瞬間、この猫の世界には海しかないようだった。

漁港の方から、船のエンジン音が遠く聞こえてくる。今日最後の便が戻ってきたのだろう。カモメが数羽、空を横切っていった。それでも黒猫は動かない。

思えば、この夏は長かった。強い日差しの下で、日陰を探して歩き回った日もあった。祭りの夜、遠くの花火の音に驚いて物陰に隠れた夜もあった。冷たい水たまりに足をひたして涼んだ午後もあった。そのすべてが、もう過去になろうとしている。

黒猫の後ろ姿には、そんな夏の記憶を見送るような静けさがあった。何かを惜しんでいるわけではない。ただ、季節が変わっていくのを、体のどこかで感じ取っているだけなのかもしれない。

波が防波堤に打ち寄せては、白い泡になって消えていく。その音のリズムに合わせるように、黒猫の尻尾がゆっくりと揺れた。

やがて日が沈みきり、空が藍色に変わっていく。黒猫はようやく立ち上がり、一度だけ海を振り返った。そして、来た道をゆっくりと歩き出した。

夏が終わる。けれど、この猫はまた、次の季節の中でも同じように、静かに何かを見つめ続けるのだろう。海はいつもそこにあり、黒猫の後ろ姿もまた、変わらずそこにあり続けるように思えた。


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